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バーナンキは正しかったか?FRBの真相 [著]デイビッド・ウェッセル

[評者]植田和男(東京大学教授)

[掲載]2010年06月13日

[ジャンル]政治 経済 国際

表紙画像

■日本の失敗から学び損ねた米国

 本書は米国の有力ジャーナリストによる2007年以降の金融経済危機時における米国の政策決定過程のリポートである。特に、焦点は連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長の言動、すなわち金融政策と金融システム不安対策にあてられている。本書の特徴は豊富な取材に基づいて政策決定の舞台裏が臨場感を伴って伝えられていること、ポールソン、ガイトナーを含めて政策決定者の人物像に迫っていることである。
 本書を読み進むと、バーナンキ指導の下、いろいろな試行錯誤があったものの、「アメリカ的特徴を持つ社会主義」(おそらく危機時にはトップダウンで平時の原則を破ってまで思い切った対応をすること)が貫徹され、危機の拡大が防がれたという見方に著者が傾いているとの印象を持つ。しかし、最終章に至ると、実は著者がバーナンキにかなり批判的であることがわかる。危機発生後の資金供給や金利引き下げが遅れたこと、証券大手ベア・スターンズの実質破綻(はたん)後も大手金融機関への資本注入の準備をしなかったこと、リーマン倒産の波紋を十分予期できなかったことなどである。
 これらは的を射た批判であり、著者の金融に対する理解の深さを物語っている。ただ、日本の読者であるわれわれはやや別の視点から似たような感想を抱く。しっかりした破綻金融機関処理スキームがなかった1990年代半ばの二つの信組処理はベア・スターンズ処理に似ている。その後、日本政府は金融機関処理に公的資金を用いるために大変な苦労をする。三洋証券、山一証券の倒産後の大混乱を経なければならなかったのである。これはリーマン後を経てようやく公的資金投入が決まった米国の姿と重なる。つまり、米国は日本の失敗から十分学んでいないのである。
 しかしながら本書でもっとも印象に残るのは次のくだりである。バーナンキが妻に電話してFRB議長内定という「『よいニュース』を伝えると、妻はわっと泣き出した。激務であり、彼らの生活を変えてしまうことを妻のほうがよく理解していた」。
 評・植田和男(東京大学教授・経済学)
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 藤井清美訳、朝日新聞出版・2625円/David Wessel 米ウォールストリート・ジャーナル紙エディター。

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