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献上博多織の技と心 [著]小川規三郎 

[評者]平松洋子(エッセイスト)

[掲載]2010年06月13日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■伝統に向き合う使命感と危機感

 「だれも後継者はおりません」
 伝統工芸に携わる職人さんから、日本各地で何度も耳にしてきた。そのたび言葉の重さにうなだれながら、傍観するほかない歯がゆさを痛感してきた。でも、こうして希少な一冊の存在を伝えることならできる。
 献上博多織は、博多の土地で培われてきた伝統工芸である。本書は献上博多織の人間国宝・小川規三郎の優れた語りを得て、中国や朝鮮半島の文化の窓口となった博多の歴史、工芸を育てた背景、代々継承してきた小川家の内実、問屋との軋轢(あつれき)、現在の仕事ぶり……職人としての当事者しか俯瞰(ふかん)できない全体像が、綿密に著されている。
 歴史は「いま」の連なりだ。だからこそ細部を伝える価値がある。小川の使命感は日本文化へ抱く危機感でもあるだろう。
 「伝統は、つねに時代を吸収して生きつづける新しいもの」
 人間国宝という位置に安住せず、一職人として伝統と向き合いながら語る言葉に耳を傾け、読むことで意味を深める——そのような日本文化の支えかたも、わたしたちにはあると信じたい。献上博多織に親しんだことがあっても、ないとしても。
 平松洋子(エッセイスト)
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 白水社・2940円

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