書評・最新書評

ジダンー物静かな男の肖像 [著]パトリック・フォール、ジャン・フィリップ

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2010年06月13日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝 国際

表紙画像

■ヒーローの「暗転」、その理由は

 思い出すに、前回のサッカーW杯は、奇妙な大会だった。普通は、優勝国が記憶の核になるのに、後世まで、次のように語り継がれるはずだから。「ジダンが決勝戦で頭突きして退場、引退した、あの大会だ」
 一度退いた仏代表チームに復帰、限界説をあざ笑うかのように、全盛時に劣らぬプレーを見せていたジダン。選手生活最高の幕引きとなるはずの舞台が、あとわずかで、突然暗転したからだ。物静かで修道僧のような彼の姿は偽りだったのか、と。
 そんな、アルジェリア移民の子として貧民街に生まれたジダンの足跡をたどった本書。彼には「頭突き」など「負のエネルギー」が爆発した過去があることも述べながら、それは彼が追求する、ボールと自在に戯れる、予測不可能、かつ美しいサッカーを汚されたことへの「悲しみの爆発」だったことを明らかにし、非難から救い出す。それはまた、彼を中心にして起こる「年俸の高額化」「人種差別」「商業主義」など、プロサッカー界の問題点をも逆照射する。
 さて、今回のW杯のヒーローは誰か。メッシ、C・ロナルド? また、寝不足に……。
 四ノ原恒憲(本社編集委員)
     *
 小林修訳、阪急コミュニケーションズ・2625円

関連記事

ページトップへ戻る