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ラスト・チャイルド 上・下 [著]ジョン・ハート

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2010年05月30日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■双子の妹を少年が執念の捜索

 著者のジョン・ハートは、デビュー作『キングの死』で米国探偵作家クラブ賞最優秀新人賞の候補に残り、次作の『川は静かに流れ』で最優秀長編賞を受賞した。3作目の本書も、英国推理作家協会最優秀スリラー賞を受賞したそうだから、久びさの大型新人作家といってよい。
 ハートは、家族の軋轢(あつれき)や崩壊を、好んで取り上げる作家らしく、本書もそれを主要なテーマにしている。タイプは違うが、後期のロス・マクドナルドを彷彿(ほうふつ)させる、重厚な小説である。悪くいえば、妙にブンガク的な作風なのだが、ミステリーとしての骨格もしっかりしており、最後まであきさせない。
 主人公ジョニーは13歳の少年で、行方不明になった双子の妹アリッサを、友だちのジャックの手を借りつつ、執拗(しつよう)に捜し続ける。父も、妹がいなくなったあと忽然(こつぜん)と姿を消し、残されたのは母キャサリンと、ジョニーの2人だけ。キャサリンは、土地の有力者ホロウェイの愛人になり、薬づけの毎日を送るという、かなり気の重い設定になっている。
 しかし、そこへキャサリンに好意を抱き、ジョニーを気遣う刑事のハントが現れて、ほっとさせられる。この、一見ハードボイルド風のハントの存在が、なかなかいい。また、自堕落な母キャサリンにも、どこか毅然(きぜん)としたところが残って、憎めない魅力がある。この2人の造形が、本書の大きな収穫だろう。
 事件は子供の失踪(しっそう)が相次ぎ、さらに複数の遺体が発見されるにいたって、異常犯罪者の犯行と分かる。ジョニーは、アリッサもその犠牲になったのでは、と必死に捜索を続ける。その執念が、物語をぐいぐいと引っ張る、大きな力として働く。
 かならずしも、ハッピーエンドには終わらないが、崩壊した家族が別のかたちで再生しそうな予感を抱かせる締めは、この重い小説の救いになった。キャサリンにとって、残されたジョニーが〈ラスト・チャイルド〉なのだが、そのジョニーが一度は決裂したジャックと、仲直りするラストはすがすがしく、読後感を爽快(そうかい)なものにした。
 評・逢坂剛(作家)
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 東野さやか訳、ハヤカワ文庫・各840円/John Hart 65年生まれ。米国の作家。

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