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京劇俳優の二十世紀 [著]章詒和 

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2010年05月23日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 国際

表紙画像

■時代に翻弄された俳優たちの生涯

 著名な京劇俳優が二十世紀の試練をどのように乗り越えたか、あるいは挫折したか、本書にふれながらその悲劇に黙してしまう。著者は中国芸術研究院を経ての著述家、父・章伯鈞(元中国民主同盟幹部)の縁もあり、京劇俳優との接点も多かったのだが、愛惜を込めて八人の俳優の生涯を語り継ぐ。
 八人とは程硯秋、馬連良などの伝統劇の改革者、梅蘭芳の高弟の言慧珠、著者の父が反右派闘争に巻きこんでしまったという葉盛蘭、葉盛長兄弟などだ。日本軍閥との闘い、その後の百花斉放・百家争鳴、反右派闘争、文化大革命とそれぞれの時代に翻弄(ほんろう)されるその姿は、実は著者自身でもある。文革を評し、「普段は隠されている残忍な本能が、最高権威の扇動の下で解放された」とあるように、俳優たちはその対象にされた。それゆえ個々のエピソードは近代中国の素描にもなる。子を残して縊死(いし)する女優、紅衛兵に監禁され飢えと寒さで死ぬ俳優、「一九六六年」前後の死は伝統芸術の危機でもあった。「歴史は、故事である」という著者の詠嘆の言にこそ、京劇そのものの歴史が凝縮している。
 保阪正康(ノンフィクション作家)
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 平林宣和ほか訳、青弓社・3150円

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