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創造ー生物多様性を守るためのアピール [著]エドワード・O・ウィルソン

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2010年05月23日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■立場の違い超えた人間の「務め」

 生物の種が、生まれる速さの100倍以上の猛烈な速さで絶滅しつつある。約6500万年前、地球史上5度目の大絶滅では巨大隕石(いんせき)が恐竜を滅ぼした。
 6度目の今度は、人類が現代の巨大隕石だという。それが私たち自身の危機でもあることに気づかねばならない。
 アリ学の世界的な権威で、今や伝説的な生物学者であり、「生物多様性」という概念を初めて提唱したことでも知られる著者による警告の書である。
 「アリ」などの著書で2度ピュリツァー賞を受賞した書き手がつむぐ、生き物たちへの愛情あふれる言葉が胸にしみる。生物の有用性からの多様性論とは一線を画した書でもある。
 まずは、天地創造を思わせる書名にたじろがないことだ。進化をめぐる科学と宗教の対立が背景にあるが、著者の意図は、立場の違いを超えた人間としての務めを明らかにすることだ。
 種の絶滅というと、私たちはとかく大きな動物に目がいきがちだ。しかし、著者は、植物や昆虫、微生物などの小さな生き物にこそ、もっと敬意が払われるべきだとする。人間が望むような形で世界を運営してくれている。つまり、彼らが作り出した環境に適応することで、人間は進化してきたからだ。
 「都市周辺だけのさなぎのような世界」では、人間は本来、健全に生きられないのだ。
 問題は、ほとんどの人が自然環境のことを心配しながら、なぜ心配するのか理解していないことにあるという。背景にあるのは、科学教育の不十分さだ。私たちに大きな影響を与える現代生物学が、爆発的に進んで理解が届きにくいこともある。
 それぞれ大きな問題だが、解決する道はこれらを一つの問題にすることだという。
 鍵は生きた大自然にある。私たちの生命はそれによってかろうじて支えられていることを理解することが出発点という。生物学はどう教えられるべきか。ハーバード大での人気講義の一端も明かされて興味深い。
 生物多様性条約の第10回締約国会議が10月、名古屋で開かれる。その前に一読を勧めたい。
 評・辻篤子(本社論説委員)
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 岸由二訳、紀伊国屋書店・1995円/Edward O. Wilson 29年生まれ。社会生物学者。

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