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「環境主義」は本当に正しいか? [著]ヴァーツラフ・クラウス

[評者]久保文明(東京大学教授)

[掲載]2010年05月23日

[ジャンル]政治 科学・生物 国際

表紙画像

■主流派の学説に疑義 刺激的な書

 著者はブッシュ前大統領のような共和党保守派の政治家ではなく、長らく社会主義の桎梏(しっこく)の下で自由を渇望したチェコの大統領である。その著者が、危機に瀕(ひん)しているのは環境ではなく人間の自由であると訴える。
 経済学博士でもある著者は、地球温暖化を支持する学説を正面から批判する。本書によれば、すべての国が京都議定書に従ったとしても、「温暖化は五〇年ごとに〇・〇七℃しか防ぐことにしかならない」。ただし著者は、環境保護のための施策を否定していない。反対しているのは、環境主義に対してである。
 経済成長と技術の進歩によって、十分対応可能であるというのが著者の立場である。そして著者は、環境主義者と社会主義者はどちらも、複雑な人間社会のシステムを無理やり管理しようとしても失敗するであろうと断言する。
 本書はいろいろなことを考えさせる。
 (1)主流派の学説は完全に正しいか。もとより、評者には、どちらの学説が正しいかを判断する能力はない。本書は科学者の世界では少数派の意見のようである。ただ、自然科学の歴史を振り返ると、多数派が間違うこともあった。一定の不確かさが残ることは確かである。
 (2)解決策はきわめて徹底的なものでなければならないか。それとも、経済成長を許容するものであるべきか。途上国も含め、経済成長と自由への願望は完全に犠牲にされるべきか。
 (3)関連して、毎日を必死で生きている国内外の人間の幸福と福祉はどの程度尊重されるべきであろうか。これは、家計に年間少なくとも数十万円の新たな負担を負わせてまで、エネルギー効率の高い日本が地球温暖化対策を実施すべきかという問題にも行き着く。
 2009年、国連の「気候変動に関する政府間パネル」の第4次報告書にデータ捏造(ねつぞう)疑惑が発覚したことも記憶に新しい。環境保護を、「絶対的真実」と信奉し、謙虚さに欠けた宗教にしてはならないであろう。批判も多いと想像されるが、刺激的な書であることは確かである。
 評・久保文明(東京大学教授・アメリカ政治)
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 若田部昌澄監修・住友進訳、日経BP社・1575円/Vaclav Klaus チェコ共和国大統領。経済学博士。

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