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セレンディピティと近代医学ー独創、偶然、発見の100年 [著]モートン・マイヤーズ

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2010年05月16日

[ジャンル]科学・生物 医学・福祉

表紙画像

■幸運と「目」が生む大発見

 セレンディピティとは、幸運や偶然、ときには失敗のおかげで、予期せぬ大発見に出会うことをいう。もっとも、運だけではだめで、米国の放射線科医である著者によれば、それをとらえる人間の創造性も不可欠だ。
 本書は、そうした発見の過程に着目して医学史をたどる。私たちが大きな恩恵を受けている医学上の大発見や発明の多くは、偶然や幸運と、それを見逃さなかった「目」によって生まれたことがよくわかる。
 たとえば、ペニシリンは、夏休みで放置された間に生えたカビを出発点に、ロンドンの気象条件などが重なって「天文学的に低い」確率で発見された。肝炎ウイルスも、肝炎とは全く関係のない研究の中で「偶然という奇跡」によって見つかった。
 ところが、現在は、最初からねらいの決まった研究がほとんどで、大発見・発明につながるかもしれない冒険心にあふれた研究は、認められにくい状況になっているという。実際にこの20年以上の間、歴史に残る成果は減っているのが実情だ。
 研究の短期的な成果が求められがちな今の日本にとっても、示唆に富む一冊といえる。
 評・辻篤子(本紙論説委員)
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 小林力訳、中央公論新社・2730円

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