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グローバル・インバランスー歴史からの教訓 [著]バリー・アイケングリーン

[評者]植田和男(東京大学教授)

[掲載]2010年05月09日

[ジャンル]経済 人文

表紙画像

■動揺する国際経済への羅針盤

 2007年以降の金融危機で米国の経常収支赤字、中国の黒字という不均衡(インバランス)はどのような役割を果たしたのか。直近のギリシャの財政危機のヨーロッパ全体への今後の波及の程度は。ドル、ユーロ、さらに中国元の国際通貨としての将来は。こうした問題を考えるヒントを与えてくれるのが本書である。
 第2次大戦後前半のブレトンウッズ体制についての標準的理解によれば、「中心国」米国のドルと金との相対価格、またドルとその他通貨の交換比率を日本やヨーロッパの「周辺国」が安定的に維持しようと努力した。日本等の一部の国は低めに維持された為替レートをも利用して輸出主導型成長を遂げた。これに対応して、最近の国際通貨・金融システムを新ブレトンウッズ体制と呼ぶことがある。中心国は依然として米国だが、周辺国は中国を中心とする東アジア諸国、その他の新興諸国である。やはり周辺国の多くは米ドルへの固定レートに近い通貨体制を採用し、東アジア諸国中心に輸出主導型成長に成功した。一部の論者は中国内陸部等の労働者予備軍の存在のため、この体制は当面維持可能だとする。
 本書の大半は金融危機発生以前の執筆になるが、著者は新ブレトンウッズ体制の維持可能性に疑問を投げかけている。現在の体制の周辺国は、戦後前半のそれよりも多種多様であり、体制の維持への強い意志に欠けている。ドルに代わるユーロという選択肢もある、等である。
 現実には、新体制の動揺は著者の主張したメカニズムではなく、中心国米国の住宅・金融バブルの崩壊という形をとった。経常収支不均衡もかなりの縮小を見せた。他方、米ドルとの固定為替レート維持の努力はむしろ強化され、それもあって中国等では経済が過熱、為替政策の今後が大きな注目を集めている。このような当面の経済動向については本書では日本語版への序文に興味深い考察が含まれている。それにも増して、国際経済学、経済史の両方に通じる著者の戦後全体に関するさまざまな主張は、適切な羅針盤を求めるわれわれにとって有益である。
 評・植田和男(東京大学教授・経済学)
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 畑瀬真理子・松林洋一訳、東洋経済新報社・2520円/Barry Eichengreen 52年生まれ。米国の経済学者。

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