「戦間期日本の社会思想」書評 ファシズムに「超国家」の契機
評者: 中島岳志
/ 朝⽇新聞掲載:2010年05月09日
戦間期日本の社会思想 「超国家」へのフロンティア
著者:福家 崇洋
出版社:人文書院
ジャンル:社会・時事・政治・行政
ISBN: 9784409520574
発売⽇: 2010/02/01
サイズ: 22cm/478p
戦間期日本の社会思想ー「超国家」へのフロンティア [著]福家崇洋
「国家至上主義から人間をどのようにすれば解放できるか」
そんな問いを発した著者がとりあげるのは、これまで「ファシズム」と見なされてきた思想と運動である。本書は、「極端な国家主義」と理解されてきた思想の中から、国家を超える構想(「超国家」)を微細に抽出する。
特に著者が注目するのが、高畠素之らの国家社会主義であり、彼らが参加した「老壮会」である。1918年に開会した老壮会は、共産主義者からアジア主義者、そして軍人まで多種多様な人物が参加し、喧々囂々(けんけんごうごう)の議論が展開された。著者はここに「既存の対立軸を溶解させる取り組み」を見いだす。そして、異質な他者との関係の中から国家の変革を模索したプロセスに「超国家」への契機を垣間見る。
しかし、この取り組みは成功しなかった。20年代以降の国家社会主義者たちは、イタリア・ドイツのファシズムに「超国家」の可能性を見いだそうとするが、その流れは最終的に国家統制の流れにのみ込まれた。
このアイロニカルな顛末(てんまつ)をどう見るべきか。時代との葛藤(かっとう)の中で潰(つい)えていった思想の可能性を、本書は現代に逆照射する。
中島岳志(北海道大学准教授)
*
人文書院・6090円