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ベイツ教授の受難 [著]デイヴィッド・ロッジ

[評者]鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)

[掲載]2010年05月09日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■セクシーな女学生が指導を請いに

 英米文学には「キャンパス・ノベル」という緩やかなジャンルがある。その中でも本書は「地方都市のあまり有名でない大学の、あまり冴(さ)えない文系教授」を主人公にしたコミカルで風刺的なタイプの作品。日本なら筒井康隆の『文学部唯野教授』などがそれに近いだろう。
 言語学者のベイツは60代半ば。体のいいリストラにあい、難聴の悪化もあって、大学を早期退職する。自由な生活を謳歌(おうか)するつもりが、趣味のインテリアで事業を成功させた妻の社交のお供や、ボケだした実父の老老介護が重なり、先生は人生の悲哀を惻々(そくそく)と感じるのだった。ところが、そこに「遺書の文体分析」を論文課題とするセクシーな女学生が指導を請いに現れて……。
 ロッジの筆が冴えわたる。言語学とはこんなに精気に満ちたなまなましいものだったか。デフ(聾<ろう>)はデス(死)への入り口などとベイツ教授は自虐的なことを言うが、とんでもない。作者は本作を「引退キャンパス・ノベル」と呼んでいるそうで、これからの高齢化社会では老後こそ描かれるべき。枯れてなお意気盛んなベイツ先生、カムバック!
 鴻巣友季子(翻訳家)
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 高儀進訳、白水社・2940円

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