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アメリカは歌う。ー歌に秘められた、アメリカの謎 [著]東理夫

[評者]久保文明(東京大学教授)

[掲載]2010年05月02日

[ジャンル]歴史 アート・ファッション・芸能

表紙画像

■音楽で知る大衆文化の奥深さ

 アメリカのカントリー・ミュージック、とりわけその歌詞に徹底的にこだわった本である。「アメリカ南部のアパラチアで生まれ、歌い継がれてきたマウンテン・ミュージックやヒルビリー・ミュージック、そしてカウボーイたちの住む西部の平原地帯ではぐくまれてきたウエスタン・ミュージックなどは、これまでアメリカ東部や北部、そして日本でも無視されつづけてきた」。そして、日本の読者にこう問いかける。「アメリカという国を理解するもっとも大切な要素だというのになぜ知ろうとしないのか」
 この音楽の起源は「アパラチアン・マウンテンズ」にある。ここには、しばしばスコッチ・アイリッシュと呼ばれる人々が入植した。彼らは祖国での歌や踊りを継承すると同時に、新天地での新たな経験を歌い、新しい音楽を開発した。
 時は下り、1992年の大統領選挙の緒戦、ヒラリー・クリントンは、自分は「男に寄り添い、家でクッキーを焼くだけのタミー・ウィネットのような女ではない」と発言した。これは68年に「スタンド・バイ・ユア・マン」の大ヒットによって「カントリーの女王」の座を獲得したウィネットを指している。著者はこのエピソードを紹介しながら、ヒットから24年もたつのに、クリントンは女性としての自分の生き方を語るときにこの歌を持ち出したこと、しかもシカゴ育ちのインテリ女性の中にすら、この歌が居座り続けていたことを指摘している。
 本書ではこのほか、歌の中の英雄ジョン・ヘンリー、「殺人」の歌、ニグロ・スピリチュアルに秘められた暗号(北部への脱出経路を示している?)など、歌詞を巡る様々な謎解きが、長年の調査と推論に基づいて展開される。
 ちなみに、カントリーを好むのは共和党支持者というデータもある。日本における演歌のように、アメリカの一般大衆が愛する文化を知るためには、絶対無視できないジャンルである。アメリカ大衆文化の奥深さと広がりを知るためにぜひ一読をお勧めしたい。
 評・久保文明(東京大学教授・アメリカ政治)
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 作品社・2310円/ひがし・みちお 41年生まれ、作家。著書に『ケンタッキー・バーボン紀行』など。

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