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写真で見るヒトラー政権下の人びとと日常 [著]M・セリグマンほか

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2010年05月02日

[ジャンル]歴史 政治 国際

表紙画像

■ビジュアル駆使して罪悪を描く

 第2次世界大戦が終わってから、すでに65年が過ぎようとしている。年数だけからいえば、太平洋戦争を含むこの大戦は、すでに遠い過去の出来事であり、ことに若い世代の人びとにとっては、歴史の一コマにすぎないだろう。
 ところが、この大戦に関連する出版物は戦後から現在にいたるまで、欧米を中心にほとんど途切れなく、刊行され続けてきた。中でも、圧倒的な数を誇るのはナチス・ドイツと、ヒトラーを扱った書籍である。欧米だけでなく、日本でもこの分野の刊行物は翻訳も含めて、驚くほどの数にのぼる。本書もその一つに数えられるが、これまでほとんど目に触れなかった、当時の貴重な写真をふんだんに使いながら、ヒトラー政権下のドイツを再現しよう、と試みた点に新味がある。ナチス・ドイツの誕生に始まり、〈警察国家〉〈抵抗運動〉〈芸術文化とプロパガンダ〉〈都市と農村〉〈大量虐殺〉など、12の章に分けてドイツ人民の暮らしぶりを、上下左右から紹介していく。
 ヒトラーの登場により、ドイツ国民はベルサイユ条約の屈辱から解き放たれ、国の威信回復と経済の復興に、狂喜する。その結果、ナチスとヒトラーのやり口に疑いを挟まず、無批判に受け入れることになる。そのため、ドイツ国民もナチス、ヒトラーと同罪である、と断定する意見も少なくない。
 著者は、従来活字にならなかったような、一般ドイツ人の手記や日記を丹念に掘り起こし、すべてが右へならえだったわけではないことを、例示する。その一方で、抵抗運動を行ったのはごく少数にすぎず、大多数のドイツ人はナチスの非道を知りながら、結局ヒトラーの呼号に従ったのだ、とも指摘する。そのあたりのスタンスは、ややどっちつかずの感があるけれども、もとよりそれを明確に規定することはできず、読者の判断に委ねるしかあるまい。
 いずれにせよ、ビジュアル効果をたくみに生かして、20世紀最大の罪悪の一つを、過不足なくまとめてみせた点に、本書の価値が認められる。
 評・逢坂剛(作家)
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 松尾恭子訳、原書房・3990円/Matthew Seligmann, John Davison, John McDonald

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