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井上ひさし全選評 [著]井上ひさし

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2010年05月02日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■新しい文章はもう読めないけれど

 本書を書店で見かけた読者は、少々おじけづくかもしれない。本文だけで800ページに迫る分厚さに。でも、心配ご無用、とっても読みやすい。
 直木賞、山本周五郎賞、吉川英治文学賞、大佛次郎賞、岸田国士戯曲賞……。先日亡くなった井上さんが、1974年から昨年まで審査を担当した文学、戯曲などの賞の選評を網羅したものです。
 だから、収められた370余の文章自体の一つ、一つは、とても短い。どこからでも読める。だからといって、内容が薄いなんてことはありません。
 真摯(しんし)かつ、凝り性な井上さん。自称、「三文検事」と「五流弁護士」の間を揺れながら、時に厳しく欠点を「告発」し、また、美点を熱く「弁護」する。そんな、文章そのものが、一編のエッセーと化しているのが芸でしょう。「小説——文章をもって『天地を動かす』仕事である」なんて、文学観もそこここに顔をのぞかせます。
 選評を「鏡」に、読んだ作品を思い出すも一興。未読の作品も読みたくなってくる。だけど、井上さんの新しい文章はもう読めない。ただただ合掌のみ。
 四ノ原恒憲(本社編集委員)
    *
 白水社・6090円

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