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とらわれない言葉 [編]アンディ・ウォーホル美術財団

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2010年04月25日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■矛盾の塊「すべてウソ」語録

 「私を知りたきゃ私の絵の表面を見ればいい、裏には何もない」。アンディ・ウォーホルの有名な言葉だ。つべこべ理屈をこく前に、包み隠さず自分の全(すべ)てを吐き出した絵を見てくれと言わんばかり。「どうせ僕は完全にうわべだけの人間だよ」とそらとぼけて舌を出す。
 「誰もが一五分間なら有名になれる」というのも有名な言葉。またみんな機械になって「誰も彼もみんな同じになればいい」とも言う。大量消費時代の複製人間は自他の区別のないペラペラの印刷物やブラウン管の中の他者としての自分を夢想する。
 彼の作品はマスプロデュースされた商品や情報が主題でイコンのように描いた。さらに自作や自身を「ニセモノ」と規定してオリジナル性の欺瞞(ぎまん)を暴き、「なんでオリジナルでなくちゃいけないの? 他の人と同じじゃいけないのかい?」と問う。
 かと思うと、「僕は空っぽになるのが好きだ」と言いながら「鏡を見るのは辛(つら)いな」とそこに何もない空っぽの恐怖に脅(おび)える。だからか、ウォーホルは自分が何者かを知られたくないために、「聞かれるたびに答えを変えるんだ」。自らを謎の存在として神話の人物に仕立てたいのかと思うと、その一方で自分のことを知ってもらうのは「ピーナッツを食べることに似ているね。始めちゃったらやめられないんだ」と平気でしらばくれたりもする。
 ボクはウォーホルに何回か会った。ボクは自分に関心があるタイプだけれど彼は他人に異常に興味を持ち、人の噂話(うわさばなし)が大好きで、そのために毎晩のように社交に出掛ける。要するにのぞき趣味のゴシップマニアで、彼は「それが本当に好きなんだ」。
 本書はウォーホル語録のコレクションである。女性に銃撃されたが、その後20年生きて58歳で死んだ。彼のあの石膏(せっこう)のような真っ白な皮膚はまるで生者を装っている死者のように見えた。墓碑銘には「全部ウソだった」と書けばいいと言い、死んだといわずに「消えた」と言ってもらいたいと願う。だって死者が2度死ぬのは変じゃない?
 評・横尾忠則(美術家)
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 夏目大訳、青志社・1365円/Andy Warhol 1928〜87。米国のポップアーティスト。

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