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祖国と母国とフットボール ザイニチ・サッカー・アイデンティティ [著]慎武宏

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2010年04月25日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝 国際

表紙画像

■「在日」サッカー選手の心情に肉薄

 1960年代末期、関西の超弱小高校サッカー部員のこの身ですら、朝鮮高級学校チームが恐ろしく強いと知っていた。ただ、それは噂(うわさ)で。当時彼らは公式戦には参加できなかったから。
 日・韓のプロリーグはもちろん、日本や北朝鮮の代表選手として多数活躍する「在日」コリアン出身サッカー選手の心情に肉薄する本書。その精神的な支柱の奥には、戦後長く差別の中で同胞の誇りを支えた「在日」サッカーチームの無敵の強さがある。が、サッカー界の国際化が進む今、3、4世の彼らは、アイデンティティーに悩む。
 「韓国籍」のJリーグ選手、鄭大世(チョンテセ)、また日韓両国のプロを経験する「朝鮮籍」の安英学(アンヨンハッ)は、共に北朝鮮代表として、日本、韓国と戦った。「韓国籍」の李忠成(りただなり)は、日本国籍を取得し、日本五輪代表に……。
 悩んだ末に語る。アイデンティティーは多い方がいい。「在日」社会や所属チームのファン、父祖の地……。少数者ゆえ様々な国の「偏見」と「良さ」に触れうる「在日」こそ、3国関係の良好化に寄与できるのでは、と。本書は外国人参政権問題などにも開かれている。
 四ノ原恒憲(本社編集委員)
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武田ランダムハウスジャパン(旧ランダムハウス講談社)・1890円

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