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天国は水割りの味がする 東京スナック魅酒乱 [著]都築響一

[評者]平松洋子(エッセイスト)

[掲載]2010年04月25日

[ジャンル]文芸 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■飲み歩いて聞き出す人生万華鏡

 住んでいる町の駅裏に白い木の扉のスナック「LOVE」がある。もう三十年以上通りかかっているのに、いまだに気圧(けお)される。扉の向こうにめくるめく人生劇場が展開していそうで。
 どうってことのない町の、どうってことのない佇(たたず)まいのスナックの、そこにしかない愉楽。筆者、都築響一さんが新宿を皮切りに東京中の渋いスナック四十七軒を飲み歩いて聞くママやマスターの半生記は、波瀾(はらん)万丈、奇想天外、抱腹絶倒、つまり人生の万華鏡。みなさんなんでこんなに濃いんですか。
 カウンターのこっち側、都築さんの聞きっぷりが絶妙だ。立ち位置つねに低め、こまめに相づち、構えを捨ててすかさず反応、ときにもらい泣き。いわば客のプロは百戦錬磨のママのこころも溶かす。酒が入った日本人の語りのすごみを引き出すさまは、夜の宮本常一か。
 深夜、酒片手にだらだらと読むのが楽しい。厚さ五センチ、辞書みたいな八六八ページに安心感があり、うんうんへえそれでと引きずりこまれて仙境へ。酒はとうぜん水割り。小島功「まぼろしママ」の贅沢(ぜいたく)極まりない挿画も天国行きの切符です。
 平松洋子(エッセイスト)
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 廣済堂出版・3045円

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