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アマゾン文明の研究ー古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか [著]実松克義

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2010年04月18日

[ジャンル]歴史 人文 科学・生物

表紙画像

■「未開」通念を根本的にくつがえす

 数年前に「秘境アマゾン巨大文明」と題したテレビの報道番組が話題になった。それは、日本とボリビア合同チームによる調査で、アマゾン上流にあるモホス大平原に、大規模な農業と都市のあとを見いだすという話であった。本書は、この調査の中心にあった著者が、その成果をまとめ、さらに、世界史的に文明を問い直そうとするものである。
 古代文明の発祥地として、メソポタミア、エジプト、黄河、インダスのほかに、アメリカ大陸では、メソアメリカ(オルメカ、マヤなど)とアンデス(インカ)の文明があげられる。が、アマゾン流域はいつも「未開」の地とみなされてきた。熱帯雨林の環境では、農業文明が成立しないと考えられたからだ。そのような固定観念に異議を唱えたドナルド・ラスラップは、1950年代から、アマゾン流域こそ文明に最適の地であると考え、アメリカ最古の文明はアンデス山地や太平洋岸地帯ではなく、アマゾンであり、それが他の地域に広がったのだと主張した。この仮説が実証されるにいたったのは近年であり、著者らの調査研究もそれに貢献するものだ。
 これは画期的な見方であり、アマゾン流域の原住民に「野生の思考」(レヴィ=ストロース)を見いだしてきた人類学者の見方、その影響を受けたわれわれの通念を根本的にくつがえすものだ。というのは、この地の原住民は、発展した農業と都市を一度経験した人たちの末裔(まつえい)であるから。また、ヤノマミ族を好戦的な未開人の典型として見ることも、人類学者が捏造(ねつぞう)した報告にもとづくことが判明している。
 アマゾン諸地域の都市は、大都市ではなく、小規模の居住地を多く建設し、それらを道路と運河で網目状に連結したものであった。また、すべてが土で作られ、石が用いられていない。これまで都市の遺跡が見つからなかったのは、そのためであろう。その意味で、他の古代文明とはまるで違っている。著者は、ここに、自然と共存しうる文明の可能性を見いだしている。
 評・柄谷行人(評論家)
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 現代書館・3990円/さねまつ・かつよし 48年生まれ。立教大学ラテンアメリカ研究所所長。

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