書評・最新書評

GEQ ジー・イー・キュー [著]柴田哲孝

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2010年04月18日

[ジャンル]文芸 社会

表紙画像

■大地震めぐる虚実皮膜の世界

 この本は、読み方によって問題作と評価する人と、単なるキワモノと切り捨てる人の、2種類に分かれるだろう。
 冒頭、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の模様が、さまざまな体験者、関係者の視点を通じて、簡潔に描かれる。同時に、以後の小説の展開にかかわりのある謎、疑義、異常現象などが手際よく提示され、読む者を作者の構築した虚実皮膜の世界へ、たくみにいざなっていく。
 物語は、『下山事件 最後の証言』で実力を示した作者らしく、小説よりもノンフィクションに近い筆致で、ぐいぐいと読者を引っ張る。主人公は、米国籍を持つ日系3世のジョージ・松永。松永は、旧知の日本人ジャーナリストで、スマトラ沖地震のおりに死んだはずの、吉村武士からメールを受け取る。呼び出しに応じ、神戸に赴いた松永の前に現れたのは、死んだ吉村の元恋人と称する、樋口麻紀という女だった。麻紀は、大震災で家族を失った過去を持つ。
 松永は、麻紀から手渡された吉村のメモに基づき、大震災の関係者を訪ね歩いて、インタビュー取材を始める。米国〈9・11〉同時多発テロ事件と同じく、背後に何か秘密があるとの確信から、麻紀の手を借りて果敢に調査を進めていく。
 この大震災については、現実に人工地震説も含めて、さまざまな陰謀説、憶測が飛び交っている。地震発生時の、核爆発を思わせる大規模な閃光(せんこう)、震源地が2カ所あるという不可思議現象、救援態勢の異常なほどの遅れなど、疑惑をかき立てるエピソードには、事欠かない。
 作者は、登場人物に実名と仮名を使い分けながら、そうした事実を一つずつ検証していく。政治情勢、経済情勢とのつながりにも、目配りが行き届いている。むろん、小説展開のための一方的、一面的な解釈も散見されるが、さほど強引さを感じさせないのは、作者の視点がぶれていないからだ。
 なるほど、こういう見方もできるのか、と読者に思わせるだけでも、本書の試みは成功したといえよう。
 評・逢坂剛(作家)
   *
 角川書店・1890円/しばた・てつたか 57年生まれ。『TENGU』『日本怪魚伝』『RYU』など。

関連記事

ページトップへ戻る