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ジャズ喫茶論ー戦後の日本文化を歩く [著]マイク・モラスキー

[評者]奥泉光(作家)

[掲載]2010年04月11日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 社会

表紙画像

■即興演奏のように楽しい「研究」

 前著『戦後日本のジャズ文化』(青土社)で、戦後文化にとってジャズという音楽の持った意味を、それをめぐる風俗や言説を含め広範に論じた著者が、他に類例のない独自の発展をとげたジャズ喫茶文化——そもそもどんな地方都市へ行っても必ず一軒はジャズ喫茶があるなどという国は日本だけだ——に特に注目し、多角的に論じたのが本書である。といっても、決して堅苦しい研究書ではない。全国各地のジャズ喫茶を巡る紀行文の体裁をとりつつ、鋭い観察や分析的な思考がちりばめられる一編は、ときに逸脱を含んで、それこそジャズの即興演奏のようにつづられていく。
 ジャズ喫茶を巡る多くの言説が懐古的であるのに対して、ジャズ喫茶の「現在」に目を向けているのが本書の特色だ。ネット時代を迎えて、いよいよ衰退しつつあるジャズ喫茶の、文化創造の「場」としての意味をあらためてとらえ直そうとする姿勢は、批評的である。
 それにしても「研究」がこんなに楽しくていいのか? もちろんいい。プレーする人間が一番楽しいのが、ジャズという音楽の特色なのだから。
 奥泉光(作家・近畿大学教授)
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 筑摩書房・2730円

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