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岩佐美代子の眼ー古典はこんなにおもしろい [編]岩田ななつ

[評者]酒井順子(エッセイスト)

[掲載]2010年04月11日

[ジャンル]文芸 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■文学に打ち込んだ“最後の女房”

 岩佐美代子は、異色の経歴を持つ国文学者です。民法学者で男爵であった穂積重遠の娘として大正15年に生まれ、女子学習院で学ぶ間は、昭和天皇第一皇女照宮(てるのみや)成子(しげこ)内親王のお相手役を務め、結婚後に独学で学問の道を歩んだ末に、大学教授となった方。本書は、そんな岩佐美代子のライフヒストリーを聞き書きしてまとめた作品です。
 彼女の人生は、平安・中世における女房のそれと重なります。成子内親王のお相手役を、大きなプレッシャーの中で13年間務めた彼女は、「自分より身分が高い、心から敬愛できる方の前に出たら、自分は『無』になる」という感覚を、理解しています。その感覚は、女房文学のみならず、日本の古典を読む上で、大きな役割を果たしているのではないでしょうか。
 紫式部が、夫の死後、中宮に女房として出仕したように、彼女もまた夫の死後、学問に打ち込み、働く女性となっていくのでした。子育てや介護や看取(みと)りといった日常の中で、時には外の世界と戦いながらも、人生の支えとして文学に打ち込んできた彼女の姿は、“最後の女房”と言うことができるのかもしれません。
 酒井順子(エッセイスト)
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 笠間書院・2310円

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