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代替医療のトリック [著]サイモン・シン、エツァート・エルンスト

[評者]広井良典(千葉大学教授)

[掲載]2010年03月21日

[ジャンル]科学・生物 医学・福祉

表紙画像


■「病気の治療とは」、議論の契機に

 現在の医療に関する様々な課題が指摘される中で、中国医学など非西洋的な医療や代替医療と呼ばれるものへの人々の関心が高まっている。本書は、科学ジャーナリストとしてよく知られた著者らが、そうした代替医療をテーマとして取り上げ、批判的な吟味を行うものである。
 「本書の目的は、代替医療について真実を探り出すことだ。どの療法には効果があり、どれには効果がないのだろうか?」。具体的に論じられるのは、鍼(はり)、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法の4分野だが、その検証にあたって準拠とされるのは、医療分野で近年浸透してきた「科学的根拠に基づく医療(エビデンス・ベースト・メディシン)」の考え方と、二重盲検法と呼ばれる方法に基づく臨床試験(その治療法と他の治療法を、被験者にも治療者にもいずれかを知らせないで行いその効果を比較する)を通じた有効性の吟味である。
 著者らの結論は、代替医療の効果はきわめて微々たるものか確証されないものであり、多くのリスクをもつと同時に、一見効果があるように見えるものも、その大半はプラセボ(偽薬)効果、つまり患者が治療の効果を信じ込むために生じる見かけ上の改善にすぎないとする。そして代替医療の多くが掲げる「自然」「伝統的」「全体論的(ホーリスティック)」といった理念は「良くできたマーケティング戦略にすぎない」と論じる。
 著者らの主張に一定以上の妥当性があることを確認した上で、現代医療論として読む場合、本書の議論にはやや表層的な物足りなさが残る。第一に「根拠に基づく医療」の考え方は医療一般の領域でも比較的最近のものであり、有効性が厳密に確証されていない療法が多いという点は通常医療にも広くあてはまる。第二に、心身相関や慢性疾患等の発生メカニズムの複雑性を考えた場合、著者らのいうような検証方法は限界を有するのではないか。本書を契機に議論すべきは、そもそも「病気」とは何か、「科学」とは、「治療」とはといった、現代医療をめぐる根本的な問いの掘り下げだろう。
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 青木薫訳、新潮社・2520円/Simon Singh 67年生まれ。科学ライター。Edzard Ernst 48年生まれ。

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