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趙紫陽 極秘回想録―天安門事件「大弾圧」の舞台裏! [著]趙紫陽、バオ・プーほか

[評者]天児慧(早稲田大学教授)

[掲載]2010年03月07日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝 国際

表紙画像

■輝きを増す元最高指導者の遺言

 本書は元最高指導者が幽閉16年の歳月の中で語った中国政治の内幕を伝える書である。限られた時期とはいえ、トップレベルの政策決定過程を内側から、これほどまでに赤裸々に描きだしたのはこれが初めてである。政策決定過程は政治学用語で「ブラックボックス」と表現されるように、もっとも見えにくい。それがまさに手に取るように描かれている。しかも1978年以来の改革開放期の全体がほぼカバーされている。本書のハイライトは、自らが失脚に至った89年天安門事件当時の熾烈(しれつ)な権力闘争の過程である。しかも、この説明は張良編『天安門文書』などと重なった解釈、主張がかなり見られ、それだけに信憑性(しんぴょうせい)が高い。
 評者にとって天安門事件に劣らず興味深かったのは、改革開放期を通した説明、特にトウ小平、胡耀邦、陳雲、李鵬ら指導者たちと趙紫陽との関係である。推測しかできなかった経済市場化、政治体制改革、ブルジョア自由化反対などをめぐる協力や確執、対立がリアリティー豊かに描かれていた。本書は現代中国政治のダイナミクスを理解する上で第一級の資料となる。
 外部から懸命に政策決定過程の内部を描こうとしてきた我々専門家にとって、これまでの自らの分析・解釈がある意味で試されることになった。評者個人は幸いなことに、改革開放期の政治動態の中で起こった幾つかの重要事件についての当時の解釈、例えば胡耀邦辞任はトウ小平自身の主体的な決断によるとの解釈(「朝日新聞」87年2月6日夕刊)などは基本的に誤っていなかったことが確認できた。
 もともと趙紫陽は共産党体制を否定していなかった。しかし彼が死を前にしてたどりついた結論は、中国には権力の牽制(けんせい)と均衡、司法の独立、複数政党制、報道の自由を基盤にする「民主主義の導入」が必要だということであった。経済パワーをますます増大させる中で、共産党の周辺に権力と富が集中し不正・腐敗がはびこり矛盾が増大している。時間はかかるが「趙紫陽の遺言」は次第に輝きを増すことになるだろう。
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 河野純治訳、光文社・2730円/チャオ・ツーヤン 19年生まれ。元中国共産党総書記。05年死去。

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