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アメリカ帝国の衰亡 [著]ポール・スタロビン

[評者]久保文明(東京大学教授)

[掲載]2010年03月07日

[ジャンル]政治 国際

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■帝国に代わる「都市国家」時代へ

 著者は「ナショナル・ジャーナル」というアメリカ政治の専門週刊誌に、高度な分析を執筆しているジャーナリストである。その著者が、本書ではアメリカの過去・現在・将来について、海外での取材に基づきながら大胆な議論を展開した。
 本書は二つの大前提をもつ。一つは「アメリカの覇権の終焉(しゅうえん)」であり、もう一つは「世界のいたるところで、すでに『アメリカ後』に向けた動きが始まっているということ」である。
 著者は『大国の興亡』を著したポール・ケネディと似て、アメリカは帝国を拡大し過ぎたために、自ら墓穴を掘ったと論ずる。アメリカはその結果、「中流の国」となってしまった。
 「アメリカ後」の世界は、カオス、すなわち混沌(こんとん)である。しかし、著者によれば、それは暗く恐ろしいものだけでなく、明るいものともなりうるので、希望は残る。いずれにせよ、将来が多極化世界となることは確実である。予想通り「中国の世紀」となる可能性も指摘されるが、本書が類書と異なるのは、そもそも巨大国家、すなわち「帝国の時代」が終焉しつつあるのではないかと推論し、「アメリカ後」の世界は「都市国家の時代」となるかもしれないと考える点にある。同時に、著者は「世界市民」の文明が発達し、最終的に「世界政府」が誕生するシナリオも提示する。
 本書は、アメリカの文脈では、民主党的な価値観に立脚した議論であり、アメリカ例外論に固執するネオコン的議論を徹底的に批判する。それだけに、共和党保守派が本書の議論を支持することはないであろう。それはとりわけ世界政府に関する議論に当てはまる。ただし、彼らが受け入れないとしても、世界の現実はたしかに多極化の方向に動きつつあるようだ。
 本書はアメリカ人に「アメリカ後」(After America:本書の原題)を説得しようとする書である。日本の読者としてはすべてを鵜呑(うの)みするのではなく、アメリカの強さや長所も銘記しておくべきであろう。けだし、将来が本当に心配なのは日本の方なのだから。
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 松本薫訳、新潮社・2520円/Paul Starobin 米国の政治雑誌「ナショナル・ジャーナル」記者。

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