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ゲーリー家の人々―アメリカ奴隷制下の自由黒人 [著]フランク・J・ウェブ

[評者]南塚信吾(法政大学教授)

[掲載]2010年02月28日

[ジャンル]文芸 政治

表紙画像

■「自由黒人」への差別描いた小説

 ゲーリー氏は美しい黒人の女性を事実上の妻にしている。かれは南部に住む「奴隷制廃止論者」の大農園主であるが、彼女を正式の妻にし、そして2人の子供を奴隷から解放するために北部に移住する。しかし北部こそ、黒人への狂信的な偏見に満ちた社会であった。ゲーリー家やその周りの黒人たちは白人の暴動によって、虐殺され、重傷を負わされ、財産を奪われた。解放されたり、白人と通婚したりしていた「自由黒人」への差別は特に深刻であったのだ。この小説は、1834年にフィラデルフィアで起きた大規模な反黒人暴動を素材にしている。
 アメリカが南北戦争を経て奴隷解放を行う前、1850年代には、黒人奴隷についての小説が多数出ている。よく知られているH・B・ストウによる『アンクル・トムの小屋』は、白人の描く黒人像であるが、黒人自身が描く黒人の小説がいくつも出ていたのである。本書は、そのひとつであり、「自由黒人」の日常と彼らへの恐ろしいほどの差別を描いている。
 「肌の色」が違うから、「一滴の黒人の血」が入っているからと言って、なぜ乗り物や職場や学校や結婚や教会で、そしてお墓でまで差別されなければならないのか。黒人は深い憤りを抱く。黒人に少しでも同情する白人は、「奴隷制廃止論者」として突き上げられる。アメリカを逃げ出す黒人もいる。少しでも肌が白いと黒人であることを隠して白人社会に潜り込む黒人もいる。それでも多くの黒人は、忍耐強く戦って、幸せを手に入れるのだった。
 本書はアメリカで書かれたが、1857年末、イギリスにおいてようやく出版された。だが1969年にアメリカで再版されたのち、1997年と2004年に続けて再版されている。そこにアメリカ社会での黒人差別への考え方の変化をうかがうことができる。
 差別というものは、差別される者も差別する者もその人間性を根底から破壊する。本書は、我々のまわりのあらゆる公然隠然の差別を内から理解する助けにもなってくれる。
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 進藤鈴子訳、彩流社・3675円/Frank J. Webb 自身も「自由黒人」の立場だった。1828年米国生まれ、1894年没とされる。

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