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日本SF精神史―幕末・明治から戦後まで [著]長山靖生

[評者]瀬名秀明(作家)

[掲載]2010年02月28日

[ジャンル]文芸

表紙画像


■未来を表現する人々の格闘描く

 日本で初めて科学小説なる言葉を用いたのは憲政の神様・尾崎行雄であったという。明治初期の人々は国会が開設されたら日本はどうなるかという未来への空想物語を読んで議会政治を学んだ。尾崎はその物語に序文を寄せ、自らも科学小説を書いて来るべき日本を見据えた。
 本書はペリー来航時に書かれた歴史改変小説から昨年50周年を迎えたSFマガジン創刊時に至る約百年を、近代日本の発展と重ね合わせて描出した意欲作だ。本書が精神史と謳(うた)うのは、いかに未来を想像し表現するか、長年にわたる人々の精神の格闘が、今日の文学と日本を形作ってきたからに他ならない。
 文学は現実を観察して描くのか想像を描くのか、坪内逍遥以来の論争は未来小説の勃興(ぼっこう)と共にあった。数々の発明が社会を豊かにする明治の新聞小説は他紙の『金色夜叉』と互角の人気を博した。押川春浪が冒険小説雑誌を開拓し、昭和初期には江戸川乱歩が空想科学小説なる新造語で海野十三を賞賛(しょうさん)。その海野は死の直前、己のすべてを若き手塚治虫に託そうとする。
 未来を繋(つな)いできた先達の想(おも)いは、最後にあなたの人生と鮮やかに結ばれる。
     *
 河出ブックス・1260円

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