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日本の新たな「第三の道」―市場主義改革と福祉改革の同時推進 [著]アンソニー・ギデンズ、渡辺聰子

[評者]広井良典(千葉大学教授)

[掲載]2010年02月14日

[ジャンル]政治 経済

表紙画像

■平等と効率、両立する社会を構想

 政権交代が現実のものとなり、民主党を中心とする現政権が子ども手当や高速道路無料化等といった政策に着手している。けれどもそうした個別の政策を統合する理念や、それによって実現しようとする社会のビジョンがよく見えない、と感じている人は少なくないだろう。
 本書はそうした社会モデルを提示すべく、「第三の道」の考え方を日本の現状にそくした形で展開し、新たな提言を行うものである。もともと「第三の道」とは「平等」と「効率」、あるいは社会民主主義と市場主義の対立を乗り越える社会のありようとして、著者の一人ギデンズが1990年代に提起し、イギリスのブレア政権など各国の改革や政策展開に大きな影響力をもった構想だ。本書は、日本はイギリスのような自由放任主義的な市場経済も、また欧州的な福祉国家も経験していないという点を確認した上で、「市場主義改革の必要性も福祉改革の必要性も、欧米よりもずっと大きい」とし、「両者をより高い段階で統合するという『第三の道』が、欧米とはまったく異なる文脈において日本では重要な意味を持つ」との認識に立ち、各種の政策提言を行っていく。
 そうした構想の一つの核にあるのが「ポジティブ・ウェルフェア」、つまり福祉を(事後的な再分配というより)人への積極的投資としてとらえていくという考え方で、「可能性の再分配」としての教育の重要性が強調される。併せて環境と経済が両立する「エコロジー的近代化」の重視や、責任を伴う倫理的個人主義といった議論が日本の文脈を踏まえる形で展開される。
 個別には、ポジティブ・ウェルフェアと環境が結びつくという点の立ち入った中身や、技術革新によって労働力への需要が減り「30年後には世界中の人々が消費する製品やサービスを生産するのに、全世界の労働人口の数%で足りるようになる」といった「グローバル化がもたらすリスク」への対応等についてさらに議論を聞きたいと思うが、これからの日本社会を太い次元において構想していくにあたって様々な示唆を含む本だ。
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 ダイヤモンド社・2100円/Anthony Giddens 社会学者。わたなべ・さとこ 上智大学教授。

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