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重力の再発見―アインシュタインの相対論を超えて [著]ジョン・W・モファット

[評者]尾関章(本社論説副主幹)

[掲載]2010年02月14日

[ジャンル]科学・生物

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■反骨精神あふれる暗黒物質無用論

 宇宙の闇に潜むとされる暗黒物質の正体探しは、21世紀科学の一大テーマとなっている。そこに、ちょっと待った、と声を上げたのがこの本だ。
 1930年代、目に見えない物質の重力なしには遠くの銀河の動きを説明できないという見方が出た。暗黒物質説である。これを支持する状況証拠は相次ぎ、近年の衛星観測は、全宇宙の物質とエネルギーを合わせたものの4分の1ほどが謎の暗黒物質、とはじき出した。
 その結果、地底に検出器を構えたり、巨大加速器を使ったりしてこの物質の正体を探る計画が進み、いまや「国際的な科学産業となっている」。
 だが、アインシュタインの相対論を手直しすれば大量の暗黒物質など要らない、と著者は考える。帳尻合わせを、物量ではなく理論の調整によって果たそうというわけだ。それは、たやすいことではなく、手直しの失敗例は後を絶たない。「いくつもの修正重力理論が墓地に埋葬されている」という。
 著者は、重力の定数は不変でないとしたり、未知の力を想定したりして、なんとか満足のいく理論にたどり着く。
 そんな野党精神の矛先は、ほかの有力学説にも次々に向かう。宇宙は誕生直後に急膨張したとするインフレーション理論、物質の究極の単位は極微のひもだとする超ひも理論……。
 光速不変の鉄則を緩めて宇宙の急膨張を不要とする戦術は、暗黒物質無用論にも通じる。
 著者は「二〇歳のときに、最晩年のアインシュタインと手紙をやりとり」した世代。最近の物理学を「砂上の楼閣のごとき数学理論を構築するのが流行している」と批判して「検証にそぐわない試みは、いずれ実を結ばずに枯れる」と断じる。
 首をひねりたくなる個所もないではない。それでも手にとって読む値打ちはあろう。
 事業仕分けで、日本でも納税者と科学者との対話の機運が高まっている。それを進めるには納税者も学界が一色ではないことを知っていたほうがよい。
 そのことに気づかせてくれる反骨の一冊だ。
    *
 水谷淳訳、早川書房・2520円/John W. Moffat 32年生まれ。トロント大学名誉教授。物理学者。

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