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インドのことはインド人に聞け!/ガンディーからの〈問い〉 [編著]中島岳志

[評者]天児慧(早稲田大学教授)

[掲載]2010年02月14日

[ジャンル]政治 経済 国際

表紙画像

■大国の現在とアジア主義の再生

 経済の自由化、グローバル化が進むインドが大きく変わり始めている。どのように変わってきているのか。『インド〜』はインドの新聞・雑誌に載った文章を消費社会化、結婚・家庭イメージ、教育など五つのジャンルにまとめ、その変化を描いている。成功した起業家、多国籍企業やIT関係で活躍する人々などが居住する新しい地域空間として「ゲーテッド・コミュニティ」が各地で生まれた。それは牛や車や貧者が入り乱れ、ゴミや汚物の溢(あふ)れた喧騒(けんそう)のインドとは隔絶した世界である。
 インド社会の趨勢(すうせい)としても、中産階級化が進みカーストの縛りが緩み、同族集団内の結婚風習も変わり始め、伝統的なインド離れが進んでいる。競争原理が浸透し、職場、家庭、教育面などでストレス社会となり、自殺者も急増している。それを著者は「社会のゲーテッド・コミュニティ化」「古き良きインドと現代インドとの距離感の拡大」ととらえ、それこそが「インドの現在の風景」だと言う。
 ほぼ同時期に出版された『ガンディー〜』では、それを「インドの深刻な混乱」と指摘し、あるヒット映画を契機に起こったガンディー・ブームの裏側にこうしたインドの苦悩を見る。
 「インド独立の父」ガンディーは、インドはイギリス人にではなく西洋の近代文明に捕らわれた、単に政治的な独立を果たしても意味がない、インド人一人一人が自己の欲望を統制してはじめて真の独立が実現できると説いた。機械文明の対極にある手仕事、支配の対極にある非暴力、人工性の対極にある自然にこだわり続けた。欲望を抑制して「自由」が獲得でき、自由が「自治」を生み出す。顔の見える範囲の自治こそが理想の民主制だと説く。さらに各宗教や民族、階層の差異性を認めながら真理の同一性を求める「多一論」=メタ(超)宗教を目指した。
 インドだけが問われているのではない。物質的豊かさと欲望のあくなき追求が生み出した病める近代社会そのものが問われている。価値としてのアジア主義の再生が求められているのかもしれない。 
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 『インド〜』講談社・1470円▽『ガンディー〜』NHK出版・1365円/なかじま・たけし 75年生まれ。

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