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進化の存在証明 [著]リチャード・ドーキンス

[評者]松本仁一(ジャーナリスト)

[掲載]2010年02月07日

[ジャンル]科学・生物

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■太古から千変万化、地上最大のショー

 2008年に米国で行われた調査によると、「地球上の生命は、始まりのときから現在の姿で存在した」とする回答が42%もあったという。つまり米国人の10人に4人は、進化を否定しているのである。天地創造神話を字句通りに信じているためらしい。
 冗談ではない、進化は科学的な事実なのだ。そのことを証明して見せようではないか——。進化学の第一人者である著者が、豊富な知識とデータを駆使して書きあげたのがこの本である。
 たとえばブルドッグ。闘牛用の犬として人間が短期間のうちにつくりだした品種だ。愛玩犬のペキニーズや狩猟用のダックスフントも、元はオオカミなのである。そら見ろ、こんな身近にも「神がつくりだしたままの姿」でない生物がいるではないか、と著者はいう。野菜や果物だって品種改良されてきたのだ。
 また人間の副鼻腔(ふくびくう)。排出口が上部にあるため、膿(うみ)がたまって副鼻腔炎(蓄膿症〈ちくのうしょう〉)になりやすい。神が人間を設計したというなら、こんな欠陥品をつくるはずがないではないか。これは、人間が四足歩行から進化した生物である証拠なのだ。
 ヒメバチはどうか。イモムシに卵を産みつけ、それを孵化(ふか)した幼虫のえさにする。えさの鮮度を保つため、親バチはイモムシの神経節を刺してまひさせ、生かしたままにしておく。イモムシは生きたまま、内からハチの幼虫に食われていくのだ。
 こんな残酷なシステムを設計した者がいるのだとしたら、そいつはサディスティックなろくでなしに違いない。そういう同僚学者の意見に、著者は強く賛同する。
 それにしても、一部の宗教指導者がいかに不勉強で、進化論にいわれない悪意を持っていることか。
 彼らは高校で進化論を教える教師に対し、生徒を組織して質問を浴びせつづけ、授業を妨害する。米ケンタッキー州には「創造博物館」というものがあり、恐竜と人間は共存していたと教えているという。恐竜は約6500万年前にすでに滅びており、人類はたかだか500万年前に出現したばかりである。共存などありえないにもかかわらず。
 マレーシアのマハティール元首相は05年11月の朝日新聞「私の視点」欄で、イスラム指導者の中にはいまも地球が2千年前にできたと言い張る者がいると述べ、一部宗教者の不勉強を嘆いた。
 そうした宗教者の頑迷固陋(がんめいころう)ぶりが最先進工業国の米国でも同様であることに驚く。地動説のガリレオを裁いた中世のキリスト教会そのまま、何も変わっていないではないか。
 訳者によると、日本の進化論支持は約80%だそうだ。戦後科学教育のたまものである。科学への宗教の介入がわが国では少ないことに、ほっとする思いだ。
 原題は「地上最大のショー」。千変万化の展開を見せる進化のことを指す。それは太古から始まり、今も進行しているのである。
     *
 垂水雄二訳、早川書房・2940円/Richard Dawkins 41年、ケニア生まれの生物学者。英オックスフォード大の「科学的精神普及のための寄付講座」の初代教授。『利己的な遺伝子』は世界的ベストセラー。他の著書に『神は妄想である』など。

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