書評・最新書評

新・がん50人の勇気 [著]柳田邦男

[評者]重松清(作家)

[掲載]2010年01月31日

[ジャンル]医学・福祉 社会

表紙画像

■まっすぐ向き合った姿、敬意込め
 がんで亡くなった人々の、死に臨む記録である。タイトルに「新」とあるとおり、1981年刊行の『ガン50人の勇気』の続編という位置付けなのだが、前作から約30年という歳月の流れは、日本人の死生観を問う柳田邦男さんの主題をさらに深化させてくれたようだ。
 前作・今作ともに、柳田さんはさまざまな人の〈豊かな死〉を描き出す。武満徹、山本七平、米原万里、乙羽信子、谷岡ヤスジ、本田美奈子……今作だけでも60人を超える死の先達のドラマは、それぞれ深い余韻を読み手の胸に残す。
 もちろん、心ならずも人生を途上で断ち切られてしまうのだから、無念はある。悲しさや悔しさもある。家族や仕事を案じる思いもあれば、後悔もある。だが柳田さんは、彼らがその思いをグッと呑(の)み込んで、まっすぐに死と向き合った姿を、敬意と共感を込めて描く。前作のあとがきにあるとおり、〈「別れの時」が迫ってきた場合においても、絶望でなく希望と勇気を、しっかりと手にし得る道があるのだということを示してくれた人々のことを、記録しておきたかった〉のである。
 さらに、前作と今作との間に流れた歳月は、死に臨む際の意識を変えた。病名や余命の告知が逡巡(しゅんじゅん)されていた時代に著された前作では、がんと知らずに亡くなった人の物語も多かった。それは裏返せば、真実を隠し通さなければならない家族の葛藤(かっとう)の物語でもあった。だが、今作では大半の人が告知を受け、家族と手を携えながら人生を締めくくっている。また、30年前には例外的な存在だった緩和ケアやホスピスが広まったことで、苦痛と闘うのではなく、家族とともに穏やかに人生を閉じる選択肢も生まれた。
 〈別れの時〉をどう迎えるかは、家族にとって最後の共同作業——だからこそ、〈希望と勇気〉も、家族全員で分かち合うものになった。柳田さんが紹介した数々の〈豊かな死〉は、読者がいずれ(誰もが、必ず!)死を迎える際のお手本であると同時に、せつなくも温かな家族の物語集でもあったのだ。
     *
 文芸春秋・1680円/やなぎだ・くにお 36年生まれ。作家。『ガン回廊の朝』『生きなおす力』など。

関連記事

ページトップへ戻る