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スキャンダルの世界史 [著]海野弘

[評者]松本仁一(ジャーナリスト)

[掲載]2010年01月24日

[ジャンル]歴史 人文 社会

表紙画像

■有名人が転ぶのを喜ぶ「観客」

 ナポレオン3世は大変な女好きだったという。国政を妃(きさき)に任せっぱなしで若い娘を追いかけていた。そのすきにビスマルクが着々とプロイセン領土を拡大。あわてて普仏戦争を始めたがときすでに遅く、大敗して第二帝政を崩壊させてしまった。
 本書は、2千年以上にわたるスキャンダルを詳細に集めている。歴史というのは、実は権力者の色と欲の結果にすぎないのではないか——。そんな気さえしてくる本だ。
 ケネディ大統領はマリリン・モンローとの関係が有名だが、実はもっと危ない話があった。ピッグス湾事件に絡む女性関係である。
 女優ジュディス・キャンベルと親しくなるが、彼女は実はマフィアのボスの女。マフィアと米中央情報局(CIA)はキューバ問題に深く絡んでいた。
 キューバ侵攻を企てたケネディは1961年、反カストロ部隊をピッグス湾に上陸させる。ところがキューバ側は、手ぐすね引いて待ちかまえていた。情報がもれていたのだ。
 著者によると、スキャンダルは三つの要素、つまり主役、事件、観客があって成立するのだという。主役は、権力者など有名な人物でなければならない。それが滑って転ぶ、観客は喜ぶ、という構図である。
 なるほどスキャンダルは古代ギリシャの時代からある。たとえばリディア王家の物語。妃の美しさを自慢したい国王が、家来に裸をのぞかせる。それを知った妃は激怒し、家来に国王を殺させてしまう。
 しかし本格的なスキャンダルというのは近代、それも18世紀ごろから盛んになったという。新聞、雑誌、テレビと、「事件」を「観客」に伝えるメディアが発達しはじめたからだ。
 その意味で、現代は大スキャンダル時代といえるだろう。「主役」は権力者だけでなく、歌手やタレントなどセレブ一般に広がり、不倫だ麻薬だとスキャンダルだらけだ。
 しかし著者は、「スキャンダルが隠されてしまう時代は危険だ」という大仏次郎の言葉を、強く読者に訴えるのである。
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 文芸春秋・3360円/うんの・ひろし 39年生まれ。著書に『スキャンダルの時代』『陰謀の世界史』など。

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