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天安門事件から「08憲章」へ―中国民主化のための闘いと希望 [著]劉暁波

[評者]天児慧(早稲田大学教授)

[掲載]2010年01月17日

[ジャンル]政治 国際

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■受難者の叫び受け止める知識人

 2008年12月、自由、人権、共和、民主などを強く求めた「08憲章」が発表され、その起草者・劉暁波が直前に拘束された。09年12月には北京第一中級人民法院において、国家政権転覆扇動罪で11年の懲役判決が下された。劉は天安門事件の指導的知識人の一人として脚光を浴び、その後幾度も逮捕されながらも民主化の闘いを続けてきた。本書は彼の支持者らが逮捕直後から編集したもので、天安門事件受難者を慰霊した詩(第一章)、天安門事件の真相隠蔽(いんぺい)に断固抗議し続けた文(第二章)、民衆の自治・共生の動きを新たな民主胎動と評価する文(第三章)、そして「08憲章」全文と編訳者たちの解説から編集されている。彼の詩・文章は天安門事件の若き受難者たちの悲痛な叫び「針」を全身で受け止めた表現でもある。しかし彼は官権と民衆が共感し協力関係を持つ必要性を説く穏健論者でもある。それでも獄中生活が強要されるのは問題の核心=事件の真実究明に非妥協的で、権力の私物化を告発するからだろう。
 民主化を顧みると20年が一つのサイクルになっている。そして弾圧者と受難者から見るとその停滞と悲劇の実像が浮かび上がってくる。69年文革時の弾圧者は49年中国を解放した毛沢東で、受難者はトウ小平・劉少奇、紅衛兵であった。天安門事件の弾圧者はトウ小平で、受難者は胡耀邦・趙紫陽、若き学生たちであった。09年の「08憲章」の弾圧者は胡耀邦・趙紫陽直系の胡錦濤・温家宝であった。基本的な構図は何ら変わっていない。権力を掌握すると人は自らの批判者を何故かくも厳しく圧殺するのか。
 中国の民主化とはある意味で権力者が反対や異なる意見・価値を許容する広がりのプロセスである。そして著者が、受難者や人道的権利擁護の運動に対して「穏健でよい、最も重要なのは根気よく頑張ることだ」と説くのは、権力者らの許容度の広がりを忍耐強く求めているからかもしれない。こうした許容度が広がり、自由・平等・公正が保障される制度が機能するようになって初めて、中国は世界で「尊敬される大国」になれるのである。
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 劉燕子ほか編訳、藤原書店・3780円/リュウ・シャオボ 55年生まれ。文芸批評家、中国民主化運動活動家。

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