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ニセドイツ 1・2 [著]伸井太一

[評者]苅部直(東京大学教授)

[掲載]2010年01月10日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像


■統制下でも膨らむ消費の欲望

 もしもこの本の題名を読まずに、中身をたまたま覗(のぞ)いたとしたら、奇妙な商品カタログと思ってしまうかもしれない。第一巻は自動車やテレビなどの工業製品、第二巻は日常生活品の写真がずらりと並ぶ。無骨(ぶこつ)なデザインでありながら、どこか愛嬌(あいきょう)をたたえたものが多い。高度成長期の日本の製品とも似た気配がある。
 これがみな、すでに消滅した国家、東ドイツで使われていたものなのである。共産主義や工業化や平等化といった理念と、ドイツ人の気質が合体した、鉄壁の全体主義社会。
 そのきまじめな空気が、今となっては郷愁をそそっている。たとえば、秘密警察が石ころにしこんだカメラは、監視体制のきびしさを示しているが、その姿が何だか愛らしいようにも見えてくる。
 そうした社会でも、コーラやジーンズやミッキーマウス(!)の模造品が作られていたという指摘がおもしろい。どんなに強固な統制のもとでも、消費にむけた人間の欲望はふくらんでゆく。そして国家の支配秩序を、現実にゆるがす結果になったのである。
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 社会評論社・各1995円

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