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勤めないという生き方 [著]森健 

[評者]江上剛(作家)

[掲載]2011年03月27日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像


■仕事と生きることが一致する喜び

 去年、自殺者数は13年連続3万人を超えた。今回の特徴は就職失敗による自殺が、前年比で2割増になったことだ。その中には、53人の学生が含まれている。2007年の3・3倍。超氷河期と言われる厳しい就職環境を反映しているのだろう。
 本書には13人の勤めないという生き方を選んだ人たちが登場する。例えば、東京大学医学部からワコールに入社したが、手染め職人になった人、京都大学大学院からトヨタに就職したが島根県の隠岐島で島起こしをしている人などだ。
 「本書はいわゆる“成功本”のたぐいではない」と著者は言う。誰もが途上だ。沖縄県・南大東島のサトウキビからラム酒を造るベンチャー企業を立ち上げ、独立した人は「目の前のことで精一杯(せいいっぱい)ですよ」と言い、起業時を振り返る余裕はない。大手化学メーカーを辞め、職人がつくるものをネット販売して成功した人は、様々な失敗をして初めてこれしかないと気付く。
 著者が書きたかったのは、彼らの「仕事と人生に対する考え方であり、それを実践に移した行動の軌跡」。考え方の共通点は収入よりも自分の好きなことをすることだ。パソナを辞めて養豚業を営む人は「むかし何もわかってない頃にお金だけに憧れたけれど」、今は「仕事が生きることと一致している。これ以上の喜びはない」と言う。
 行動の軌跡の共通点は「どうしても」という強い思いと「出会い」だ。皮革メーカーから転職して極貧生活にあえいでいた人は「革しかなかったんです」と革職人として独立する。博報堂を辞め、建築家になった人はある日、「ここ(会社)にいたら、おれの人生って決まっちゃってるんだ」と思う。彼らは会社を辞める時、これをやりたいというものを持っていたわけではない。しかし、彼らはよく動く。動きから「出会い」が生まれ、師匠と仰ぐ人が現れ、現在につながっていく。とにかく動かないとだめなんだ。
 私も銀行を辞め、作家になった。彼らのことは理解できる。本書は、会社や就活で悩む人たちに力を与えてくれるだろう。
 評・江上剛(作家)
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 メディアファクトリー・1365円/もり・けん 68年生まれ。フリーライター。『人体改造の世紀』など。

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