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破壊する創造者―ウイルスがヒトを進化させた [著]フランク・ライアン

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年03月06日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■生物に進化を促す“魔神”のよう

 文科系の思考回路を持つ者には、本書の内容はときとして難解すぎる。しかし読み進むうちにある感動に包まれる。進化生物学の難解さは、日々進歩しているがゆえのことであり、著者によれば一世代前には想像すらできないことが起こっているのが現実という。その進歩の道筋を、とくにウイルス研究という分野を見ながら旅をしてみようというのが本書執筆の意図だと医師の著者は明かす。
 ダーウィンの「自然選択説」の弱点は、ある個体や集団が適応度を高めるには子孫になんらかの変化が起きなければならないが、それが不透明だった。今では「遺伝子、ゲノムの変化」ということがわかっている。ダーウィンを超えていくそのプロセスを本書は具体的に解説していく。そうした解説の中には「ウイルスは、進化、変異という面では突出している。ともかく驚くべき速さで変異をする」「遺伝子を理解するには、個々の遺伝子を一つの単語だと考えるとわかりやすい」「ガン細胞は、身体から取り出して培養すれば永遠に生き続ける」「細菌もセックスをするらしいということがわかった」「宿主とウイルスが、状況によってお互いへの攻撃性を弱める場合がある」「ウイルスを共生体とみなす発想がなかったことが、この何十年にもわたって様々な誤解を生んできたのではないか」といった表現が随所で繰り返され、その意味が相互に連環性をもっている。
 著者の説明は弁証法的、実証的なゆえに理解も容易になる。
 細菌よりも小さいウイルスは、私たちにとって敵でもあり、同時に進化を促す起爆剤でもある。あらゆるゲノムに侵入する能力をもち、ゲノムに入りこんだあとはこんどはそれを支配する。この支配とはゲノムを操って自らのコピーを無限につくっていくことだ。がんの原因になるのもそのためだ。しかもこれを防御する遺伝子を妨害するという。こうした説明にふれているうちにあらゆる生物に存在するウイルスは、実は生物に「死」を与えることで、進化を促している「魔神」であり「革命家」とさえ思えてくる。
 評・保阪正康(ノンフィクション作家)
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 夏目大訳、早川書房・2625円/Frank Ryan 英国の進化生物学者、医師。『ウイルスX』など。

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