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奥田英朗「純平、考え直せ」書評 「鉄砲玉」を触媒に回復する絆

評者: 江上剛 / 朝⽇新聞掲載:2011年03月06日
純平、考え直せ (光文社文庫) 著者:奥田 英朗 出版社:光文社 ジャンル:一般

ISBN: 9784334766627
発売⽇:
サイズ: 16cm/305p

純平、考え直せ [著]奥田英朗

 主人公の坂本純平は、新宿の歌舞伎町を根城にする早田組に杯を受ける21歳のチンピラだ。ある日、親分から鉄砲玉になれと言われ、対立する組幹部を殺すよう命じられる。決行までは3日間しかない。
 純平が暮らす歌舞伎町の住人すなわち娼婦(しょうふ)、おかま、やくざ、マル暴刑事、家出少女、浮浪者などは純平にとって身近でリアルな世界の住人。一方、新宿で知り合った加奈が携帯電話の掲示板に純平が鉄砲玉になったと書きこんだために反応してきた膨大な数のネット世界の住人たちはバーチャルな存在。二つの世界の住人たちは決してつながることはない。しかし、純平が過ごす3日間にこのリアル、バーチャルな世界の住人たちが、純平の純粋さに引き寄せられるようにつながっていく。
 純平は「案外世界はいいところかもしれない」と思う。世間との絆が断たれている者たちが、純平を触媒にして絆を回復するという奇跡が起きたのだ。
 新宿歌舞伎町といえば風俗業の多さで知られる。危ないイメージが強い。そんな町を人と人とが強い絆で結ばれるユートピアに変えてしまう。小説って本当にすごい。
 江上剛(作家)
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 光文社・1470円