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臨床の詩学 [著]春日武彦

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2011年03月06日

[ジャンル]医学・福祉 社会

表紙画像

■ありふれた「言葉」が持つ力

 人と心が通い合う。そんな言葉を書いたり、言ったりするのは簡単だが、けっこう情緒的で、あやふやな状態ではないのか。だから良いのかもしれないけれど、精神医療の現場ではそうもいかない。患者と日々相対しながら、考えざるをえない。産婦人科医から精神科医に転じた著者が、臨床経験から書き起こした文章には、日常のコミュニケーションや他者理解にも通底する風景がある。
 2部構成。コミュニケーションという観点から精神医療という世界の難しさを伝える後半の「辺境の作法」も興味深いが、本のタイトルを表題とする前半が、面白い。臨床の現場で、コミュニケーションが成立していなかったように見えながら、何げなく発した「言葉」で心の交流が起こる瞬間があるという。
 例えば入院を拒否する患者に、あなたは「苦戦中」だから「援軍」になりたいという一言で、素直になる。そんな言葉の多くは、ごく、ありふれた言葉だった。それは何故かを、多くの文学作品や詩の言葉と対比させながら、著者は語る。
 「言葉」の力とは、なんと不思議なものか。
 四ノ原恒憲(本社編集委員)
     *
 医学書院・1890円

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