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あっぱれ!旅役者列伝 [著]橋本正樹

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2011年02月27日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■舞台の上も客席も熱く多様に

 何やらセピア色めく「旅役者」という響きに惹(ひ)かれ、手に取った。誰にでも知られた名前ではない。でも、テレビの登場で、衰退の一途をたどった昭和30年代からの不振を抜け、今も多くの熱狂的なファンに支えられる世界に魅せられ、長く取材を続けてきた筆者のルポルタージュ。17人の名優が登場する。
 その多くが、母の胎内より舞台に立っていた「腹の中からの役者」。幼少時から、劇場を移り歩くつらさや、世間や劇団幹部のいじめなどに耐え、人の演技に学び、独自の持ち味を作り上げていく精進。時には、トラブルや仲間の窮地に身を張って立ち向かう“侠気(きょうき)”も必要だ。理屈ではない、何よりもお客さんを楽しませるため、と語る彼らの言葉は熱い。
 大衆演劇の盛んな九州の役者がなぜ芸達者なのか、と問われ、ある座長は語る。「努力」そして、「きびしい上下関係。幕内に民主主義は不要」と。社会が、すべて同じ市民的ルールで貫かれる必要があるのか。犯罪、ごまかしは論外だが、多様なルールが支配する集団が混在する世界の方が、豊饒(ほうじょう)ではないか。歌舞伎や相撲にしても。
 四ノ原恒憲(本社編集委員)
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 現代書館・2310円

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