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未完の平和―米中和解と朝鮮問題の変容 1969〜1975年 [著]李東俊

[評者]姜尚中(東京大学教授・政治学、政治思想史)

[掲載]2011年02月20日

[ジャンル]歴史 政治 国際

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■南北分断の固定化、デタント期に進行

 グローバルな冷戦の終結にもかかわらず、なぜ朝鮮半島だけは、「歴史の孤児」のように凍(い)てついた冷戦の厳冬のただ中にあるのか。確かに朝鮮戦争の体験が決定的な影を落としていることは間違いない。だが、それだけが決定的な要因であったわけではない。朝鮮半島の分断が打ち壊しがたい構造となったのは、朝鮮半島への米中の共同介入を前提とする「米中協調体制」によるものでもある。本書の最大の特徴は、まさしくこの点を、米中関係、米韓および中朝の同盟関係、南北関係という「関係の連鎖」のダイナミズムの分析を通じて明らかにしている点にある。具体的にはニクソン・ドクトリンに端を発する米中和解によるデタント期の冷戦秩序の変容を通じて分断体制がいかに再編、制度化されていったのか、その起伏にとんだ経緯が膨大な資料の解読を通じて明らかにされているのである。
 本書によれば、米中関係と南北関係を結びつけていた媒介的な争点は、在韓米軍に象徴される「安全保障問題」であり、さらに朝鮮半島における「唯一合法政府」という意味での正当性をめぐる問題であった。このふたつの問題に対して米中は紛争の「局地化」と戦力の「安定化」という共通の戦略的利益のもと、最終的には在韓米軍を東北アジア地域の「安定力」として認め合ったのだ。そして米中は、韓国の唯一合法性を後押しする国連朝鮮統一復興委員会(UNCURK)を解体し、朝鮮半島における分断国家の存在に国際的な承認を与えたのである。
 この枠組みの中で南北双方は、苛烈(かれつ)な体制間競争にのめり込み、そのため「敵対的相互依存性」が強化され、分断固守の力が内側から働くことになった。こうして擬似的な戦争状態にも近い極端な対立を朝鮮半島に封じ込める(局地化)ことで、米中は第二次朝鮮戦争の危機に巻き込まれることなく、東北アジア地域に「長い平和」を実現しえたのだ。
 だが、現在では体制間競争における北朝鮮の敗北とともに、その脆弱(ぜいじゃく)性が露(あらわ)になり、「米中協調体制」の綻(ほころ)びが明らかになりつつある。核開発をテコにした北朝鮮の非対称的な瀬戸際外交は、米中共同介入による危機管理システムに突きつけられたダモクレスの剣となりかねず、分断体制の均衡が破られようとしている。この深刻な危機を平和的に解消するプロセスは、本書が提言しているように、南北・米朝・日朝関係の正常化、それらを踏まえた停戦協定から平和協定への転換など、冷戦構造の解体に向けた「複雑な連立方程式」にならざるをえないだろう。
 最近の米中首脳会談や一進一退の南北関係など、東北アジアをめぐる現在の新たな展開は、本書で取り上げられている米中和解によるデタントの時期とアナロジカルな(類推的な)関係にあるようにも見え、本書の意義はきわめてアクチュアルである。リアリズムの立場に立った、冷戦史研究の新たな1ページを飾る力作として評価したい。
 〈評〉姜尚中(東京大学教授・政治思想史)
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 法政大学出版局・6300円/リ・ドンジュン 69年、韓国生まれ。韓国日報記者を経て、東北大学大学院法学研究科で博士号を取得(法学)。現在、日本学術振興会外国人特別研究員。専門は国際関係論。

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