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日本語の古典 [著]山口仲美

[評者]田中貴子(甲南大学教授)

[掲載]2011年02月20日

[ジャンル]文芸 新書

表紙画像

■原文読んで初めて分かる魅力

 古典文学はお好きですか?と聞いてみると、だいたい二通りの答えが返ってくるものだ。一つは、「難しいし、生活に必要ないから読まない」というもの。もう一つは、「古典くらい知ってる。日本人の精神を体現した万葉集とか、恋愛ばっかりの源氏物語とか」というもの。圧倒的に多いのは一つめだろうが、問題は二つめの「わかったつもりになっていて、自分では読まない人」の方である。
 彼らは実際に古典文学を手にしたわけではなく、誰かさんの貼ったレッテルを信じているだけなのだ。そういう人は、得てして「原文なんか読まなくても古典はわかる」なんて思ってる。その裏には、「原文は難しい」という思い込みがあるのだ。
 ちょっと待って! 古典文学の魅力は原文を読んで初めてわかるのである。あらすじを知るだけでなく、言葉や表現そのものを味わうことの楽しさを知ってほしい。これは、私だけでなく、著者の願いでもある。
 あなたは、源氏物語に造語がたくさん出て来るのを知っているか? 「虫愛(め)づる姫君」が漢語をしゃべっているのを知っているか? 『蘭学事始』は『蘭東事始』と言う方がよいということを知っていたか? これ、全部本書の受け売りである。
 本書が並の「古典教養書」と異なるのは、「言葉愛づる君」というべき日本語の第一人者が、自らの読書体験で得た発見を瑞々(みずみず)しい感性で語っている点である。硬直した古典観をひょいと飛び越えた、楽しくてためになる言葉の世界が展開してゆくのだ。
 読みやすさへの著者の工夫は、それぞれの作品を読むに当たって一つのテーマを設けていることでもわかる。膨大な古典文学を一から読まないといけない、といった気構えが、これですっと消えてゆくだろう。
 特筆したいのは、著者の新たな発見の喜びがダイレクトに読者に伝わってくることである。それにより、読者も発見の瞬間に立ち会う喜び(これは学問の喜びでもある)を味わうことができるのだ。まさに、元気な古典入門書である。急げ、書店へ。
 評・田中貴子(甲南大学教授・日本文学)
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 岩波新書・840円/やまぐち・なかみ 43年生まれ。明治大学教授(日本語学)。『日本語の歴史』ほか。

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