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遺伝子医療革命―ゲノム科学がわたしたちを変える [著]フランシス・S・コリンズ

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年02月13日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■解読宣言10年、「革命」は起きたか

 ヒトの全遺伝情報、すなわちヒトゲノムの解読がほぼ終わった。クリントン米大統領が2000年6月、こう宣言したときにその脇に立っていたのが著者である。日本も参加した国際協力による解読計画を率いた。
 医学はもちろん、私たちの生活は一変する。大統領もそう高らかにうたい上げたのだが、10年たってどうか。
 本書は、ヒトゲノムの今を一般向けに語る。序章のタイトルにあるように「もう、知らないではすまされない」からだ。
 ヒトゲノムは60億文字あり、私たちはだれもが、文字の変異を数多く持って生まれている。致命的な病気をもたらすたった1字のミススペルや、糖尿病やがんなどの病気のなりやすさもわかり始めた。
 ある病気になりやすいとわかれば、予防できる場合もある。薬の有効性も遺伝情報から事前にわかるかもしれない。
 文字を読む費用は100分の1以下と劇的に下がり、1人のゲノムを読むのに千ドル未満、そんな時代も近づいてきた。個々人の遺伝子に基づく、パーソナルなゲノム医療の時代になった、というのである。
 著者の家族が遺伝病のリスクに直面してどう対応したか、民間の3社に依頼した著者自身の遺伝子解析の結果は、プロの目で見てどうだったか、それをどう役立てたか、科学者らしい率直さで語っている。
 市民がゲノム情報をどう入手して使っていくのか、政府機関などからの情報提供が充実していることと合わせて、彼我の差を大いに感じさせられる。
 むろん、ゲノムですべてがわかるわけではない。限界もきちんと指摘されている。
 その限界に着目すれば、10年前に予想されたような革命はまだ医療にもたらされていない、となる。そんな見方が一方にあることも事実だ。
 いずれにせよ、私たち一人ひとりが自分の遺伝情報に向き合い、選択を迫られる時代になりつつあることは間違いない。
 それに備えるとともに、病気を新たな視点で考えるために大いに役立てたい一冊である。
 評・辻篤子(本社論説委員)
     *
 矢野真千子訳、NHK出版・2205円/Francis S. Collins 遺伝学者。米国立保健研究所長。

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