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下町ロケット [著]池井戸潤

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2011年02月06日

[ジャンル]文芸 経済

表紙画像

■大企業と対決、職人集団の誇り

 同じ著者による、昨年の吉川英治文学新人賞受賞作『鉄の骨』の系列につながる、中小企業と大企業の対決をテーマにした痛快小説である。
 東京都大田区の町工場、佃製作所の社長佃航平は、元宇宙科学開発機構の技術者で、ロケットエンジンの開発に携わっていた。ところが、肝心のロケット打ち上げに失敗。その責任をかぶって辞職し、父親が創業した精密機械の製造工場を引き継ぐ。佃は技術者としてのキャリアを生かし、エンジン類の開発で業績を伸ばすが、ロケットへの夢を捨てきれずにいる。
 大手のナカシマ工業から、いわれなき特許侵害の訴訟を起こされた佃は、資金難から長期裁判を闘い抜く見通しが立たず、対応に苦慮する。それと並行して、大企業の帝国重工からロケット用の新型水素エンジンの特許譲渡を持ちかけられる。
 夢を実現するため、実用化のめどもないまま開発した水素エンジンだが、佃は大金が入る特許譲渡を拒否し、部品供給契約に固執する。資金難にあえぐ社内は、その決定に強く反発する。帝国重工は、最悪でも特許の独占使用契約を認めさせようと佃製作所を締めつける。しかし佃はうんと言わず、社員との溝がしだいに深まる。
 町工場と大企業の攻防、社員同士の反目や確執が次から次へと繰り出されるので、ページをめくる手が止まらない。
 経済小説の範疇(はんちゅう)に入るが、小むずかしい話はさらりと流しつつ、職人集団の苦悩と誇りをテンポよく書き進める。夢の実現にこだわる佃の頑固一徹な性格、それに反発しながらも最後は協力する社員たちの対比が絶妙だ。
 その中で出色なのは、メーンバンクから出向して来た、経理部長殿村の人物造形である。殿村は、最初のうち銀行寄りの態度を見せながら、しだいに佃の生き方に共感を覚え、ついには強力な味方に転じる。最初は、ぱっとしなかったキャラクターが、しだいに輝きを増していく過程が、快いリズムを生む。
 予定調和的な結末だが、読後感のさわやかな佳作である。
 評・逢坂剛(作家)
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 小学館・1785円/いけいど・じゅん 63年生まれ。『果つる底なき』『オレたち花のバブル組』など。

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