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戦後日本漢字史 [著]阿辻哲次

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年01月30日

[ジャンル]歴史 教育

表紙画像

■漢字の歴史を辛辣に俯瞰

 本書は一研究者の漢字論である。戦後にアメリカから訪れた教育使節団は、日本人にとって漢字習得には時間がかかるし、封建制を強要するものだとしてローマ字化を促した。日本の国語学者はいかに日本人の識字率が高いかの全国テストを行い、その数字をもって抵抗した。もっとも日本にもローマ字論者がいたが、とにかくアメリカ側の強要は受け入れなかった。
 それから現代のパソコン、ワープロまでの漢字の歴史を辛辣(しんらつ)な筆で俯瞰(ふかん)する。戦後の漢字改革として、たとえば当用漢字(千八百五十字)の制定などには批判を浴びせる。千年余の歴史をもち、今なお東アジアで用いられている漢字を現代的視座だけで決めていいのか。さらに漢字を勝手に、たとえば「示」に「申」を神と変える当用漢字字体表では、ころも、衣服を意味するころもへんと似て区別がつきにくくなった。旧字を新字にすることで漢字の意味は死んでいく。近年は別字の意味も曖昧(あいまい)だとして、巳と己を例に「巳(み)は上に、己(おのれ)己(つちのと)下につき、半ば開くれば已(すで)に已(や)む已(のみ)」と教えられた区別は何だったのかと嘆く。漢字は精神文化だ、と著者と共に叫びたくなる。
 保阪正康(ノンフィクション作家)
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 新潮選書・1260円

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