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認知症と長寿社会―笑顔のままで [著]信濃毎日新聞取材班

[評者]四ノ原恒憲(朝日新聞記者)

[掲載]2011年01月30日

[ジャンル]医学・福祉 ノンフィクション・評伝 新書

表紙画像

■「ギリギリの努力」の現場ルポ

 人は誰しも、健康で長命を願い、他人に迷惑をかけずに天寿をまっとうしたい。でも、人間は生物であるが故に衰える。病にもかかる。往々にして誰かの手助けが必要になる。まして、記憶があやふやになり、認知の力が衰える「認知症」と診断されたらどうすればいいのか。
 本書は、少子高齢化が進むこの国で、ますます大きな課題になりつつある老人介護の問題を、現場取材を中心に正面から取り組んだ新聞連載をまとめたものだ。2010年度の新聞協会賞をはじめ、数多く賞を受けた本文を読むと、その深刻さが、胸を突く。
 突然の記憶の衰えに、うろたえ、不安の底に沈む心情を綴(つづ)った、介護される本人の日記。「病気」だとわかっていても、物忘れや暴言、徘徊(はいかい)に、つい言葉を荒らげ、自らもまた傷つく介護者。世間体をはばかり、そんな苦労をわかちあう友も近隣では見つけにくい。
 家族での介護に疲れ果て、預かってくれる施設を捜し求めるが、絶対的な数の不足から断られ続ける絶望。いや、施設が見つかったら、今度は「親を捨てたのでは」という自責の念が待っている。志を持った施設の側も苦しむ。多くの希望者を、受け入れたくても、選別せざるを得ないし、人手を増やそうにも今の介護保険制度下では経営的に難しい。今や、重い認知症患者の大きな受け皿である精神科病棟も、長期入院を嫌う現行の医療保険制度では、長く置いてくれない……。
 もちろん、暗い話ばかりではない。新聞のエリアである長野県のルポが中心であるが、障害者との共生の試み、地域が連帯しての見守り、治療のための新薬の開発の現場など目配りは全国、国外にまで広がる。
 どの立場も、ギリギリの努力で支えられている。それを癒やすのが、老人の笑顔だ。でも、もう少し助けがあれば。介護保険制度は、老人の自立をめざす。本書は問いかける。「老いてもなお自立なのか」と。ひとごとではない。今は元気なあなたの家族、いや、あなた自身の、明日の身近な問題なのです。
 評・四ノ原恒憲(本社編集委員)
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 講談社現代新書・798円/信濃毎日新聞で2010年1月から6月まで連載。新聞協会賞、JCJ賞など。

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