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ヒマラヤのドン・キホーテ ネパール人になった日本人・宮原巍の挑戦  [著]根深誠

[評者]石川直樹(写真家・作家)

[掲載]2011年01月16日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝 国際

表紙画像

■終わりなき情熱、貫いて生きる
 
 昨年ぼくは春と秋の二回にわたってネパールのヒマラヤ山中を歩いた。世界最高峰の麓(ふもと)へと続く気持ちのいいトレッキングルートはエベレスト街道と呼ばれて、世界中の観光客に人気がある。街道の中間地点に、山岳民シェルパの里として知られるナムチェバザールという村があった。村から斜面を登り、小さな飛行場を越えると、やがて小高い丘の上に山中とは思えないほど立派な建物が見えてくる。それこそ、本書の主人公である宮原巍が40年前に建設した「ホテルエベレストビュー」だった。
 ホテルの標高は富士山頂よりも少し高く、背後にはエベレストやローツェ、アマダブラムなどの秀峰が見渡せる。当時のネパールにおいて4000メートル近い高所にホテルを建てる凄(すさ)まじいまでの苦労は、宮原自身が記した著書『ヒマラヤの灯』(絶版)に詳しい。
 ホテルエベレストビューの本棚で、ボロボロになってところどころページが抜け落ちたその本を発見し、ぼくは夢中になって読んだ。あとがきの日付は「1982年盛夏」、とある。それから決して短くはない年月が経った現在、激しく冒険的な生き方を貫いてきた宮原さんが今どのような日々を過ごしているのか、知りたいと思わないわけがなかった。
 本書『ヒマラヤのドン・キホーテ』が発売されたのは、ぼくがエベレスト街道から帰った直後である。そこには、ネパール国土開発党という政党を結成し、マオイストが台頭するかの国で制憲議会選挙に打って出た宮原さんの姿が描かれていた。著者は、宮原と旧知の仲であり、ネパールとヒマラヤの現状をよく知る根深誠である。日大登山隊での山行にはじまり、会社を辞めて志願した南極観測やグリーンランド探検、還暦でエベレスト登山に挑戦し、泥臭い選挙戦を戦うまで、終わりなき挑戦を続ける宮原さんの情熱が行間から溢(あふ)れ出している。
 精一杯(せいいっぱい)生きる、ただ一心にそれを貫き通す独りの人間の生き様をぜひ多くの人に知ってほしい。
 評・石川直樹(写真家・作家)
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 中央公論新社・1890円/ねぶか・まこと 47年生まれ。ルポライター、登山家。『一竿有縁(いっかんうえん)の渓』など。

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