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電子本をバカにするなかれ [著]津野海太郎/電子書籍奮戦記 [著]萩野正昭

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年01月16日

[ジャンル]文芸 IT・コンピューター

表紙画像

■本と人との緊張をはらんだ未来

 電子書籍元年といわれた2010年に続く今年、電子の本はさて、どこまで広がるだろう。
 専用端末も次々に登場し、また一歩、私たちに近づいてきそうだが、電子の本の登場は、私たちの文化の根幹に深くかかわる出来事であることを教えてくれるのがこの2冊だ。
 名編集者として知られる津野は、書物史、つまりは人類史の中で、電子の本を位置づける。本の電子化は、口述から書物へ、写本から印刷本へという、二つの革命に次ぐ第三の革命であり、しかも、紙と印刷の本を代替してしまうのでなく、本というものが史上初めて、それぞれに能力と限界をもった二つの形に分化して共存していこうとしているのだという。
 印刷された本はその頑強な物質的定着性ゆえ、消えようがない。その一方で、非物質性を特徴とする電子本は「伝統的な本には望みようもなかった新しい力」を本の世界にもたらす可能性があると期待もする。
 とはいえ、ビジネス上の思惑だけでは「電子本の時代」は始まらない。社会の知の水準を保持するという、印刷本が担ってきた重い責任を分担してこそ、本の伝統を引き継ぐ正統性の根拠となるからだ。
 その点で、まだまだ「元年」などではないぞ、と厳しい。
 一方、本書での対談で津野が「コンピュータで本を読む道具を10年以上も作り続ける、そんなバカなことをやってきたのは日本のボイジャー社だけじゃないの?」と語りかけているのが、同社を設立した萩野だ。
 『奮戦記』で、エキスパンドブックの開発に始まる足跡を振り返り、出版の本質は誰もが自由に発言することであり、電子出版を始めたのもそのための実験の場だったからと語る。
 電子出版は小さいもののためのメディアだから、今の合言葉は「ノー・アマゾン、ノー・アップル、ノー・グーグル」。少数企業の独占的な市場支配で新しい出版の可能性が狭められてはならないからだ。
 電子本の華やかな話題の向こうに、本と人との緊張をはらんだ未来が見えてくる。
 評・辻篤子(本社論説委員)
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 『電子本』国書刊行会・1890円/つの・かいたろう▽『奮戦記』新潮社・1365円/はぎの・まさあき

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