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ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利 [著]ロバート・バー

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2011年01月16日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■珍重すべきミステリーの古典

 まことに珍重すべき、ミステリーの古典である。著者はコナン・ドイルと同時代の作家で、ホームズもののパロディーを書いたこともある、という。主人公のウジェーヌ・ヴァルモンは、フランスの刑事局長の座を追われ、ロンドンに渡って私立探偵になる。その、破天荒な活躍を描いた連作短編集。
 本書は、〈我輩(わがはい)〉という一人称で書かれており、往年の保篠龍緒訳のアルセーヌ・ルパンものを思わせる、軽妙な語り口が心地よい。これは訳者のお手柄だろう。何より、ヴァルモンの気取った、それでいて憎めないキャラクターが、いちばんの収穫だ。ビクトリア朝の時代色が、よく出ている。捜査方法など、英仏のお国柄の違いを論じるおしゃべりも、おもしろい。 提示される謎と解決は、どれも古さを感じさせず、総じてルパンものより合理的である。中でもヴァルモンが、犯人一味の青年にやり込められる、「うっかり屋協同組合」は失敗談にもかかわらず、愛すべき小品に仕上がっている。
 昔ながらの、読書の楽しみを思い出させてくれる、佳味あふれる作品集である。
 逢坂剛(作家)
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 平山雄一訳、国書刊行会・2310円

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