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ロードサイド・クロス [著]ジェフリー・ディーヴァー

[評者]江上剛(作家)

[掲載]2011年01月09日

[ジャンル]文芸

表紙画像


■人間的魅力たっぷりのヒロイン

 本書のテーマはネットでのいじめだ。ネットの匿名性に隠れて他人を誹謗(ひぼう)、中傷する事件が後を絶たないが、著者はそうした危険を警告するためにこのミステリーを書いたという。
 私もネットでブログを続けているが、心底、嫌な思いをすることがある。ブログの言葉尻をとらえ、匿名氏が非難の書き込みをすると、それに対してまた誰かが、さらに誰かがという具合に、まるで津波のように汚く悪意に満ちた言葉が襲いかかってくる。世の中はこんなにも悪意が満ちているのだと悲しくなり、落ち込んでしまう。匿名の非難は卑怯(ひきょう)だ。仕返ししてやりたいと思うのだが、相手はネットの向こうに隠れ、姿を見せない。私はなすすべもなく、悔しさをかみしめるだけだ。
 物語は、少女の殺人未遂事件から始まる。その前日、事件を予告するかのようにロードサイド(路肩)に十字架(クロス)が置かれていた。犯罪の可能性を予感したカリフォルニア州捜査局(CBI)の女性捜査官キャサリン・ダンスは捜査を開始する。彼女はキネシクスという動作分析を駆使して容疑者のうそを見抜く尋問の天才だ。
 捜査線上に容疑者として高校生のトラヴィスが浮かび上がる。彼は交通事故を起こし、同乗していた二人の同級生の少女を死に至らしめた疑いを持たれている。その交通事故をブロガーのジェームズ・チルトンがブログで批判的にとりあげた。そのことをきっかけに彼は激しいネットいじめにさらされる。殺人未遂事件の被害者の少女は彼をネットでいじめていた少女だったことが分かる。トラヴィスの復讐(ふくしゅう)なのか? ダンスは彼を追及するが、彼は姿を消す。奇怪な事件はダンスをあざ笑うかのように次々と発生し、ついに殺人事件に発展してしまう。
 ネット犯罪を扱いながらダンスはネットに詳しくない。そのため、ネットに不案内な読者でもダンスと同じ目線で、ネットの実態を学びつつ犯人を追いつめる楽しさを味わうことが出来る。ネットの悪意とは真反対な人間的魅力たっぷりのヒロインの活躍に、心が洗われる。
 評・江上剛(作家)
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 池田真紀子訳、文芸春秋・2500円/Jeffery Deaver 50年生まれ。『ウォッチメイカー』など。

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