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北村薫「飲めば都」書評 お酒と恋、働く女子の成長物語

評者: 田中貴子 / 朝⽇新聞掲載:2011年06月05日
飲めば都 著者:北村 薫 出版社:新潮社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784104066070
発売⽇:
サイズ: 20cm/356p

飲めば都 [著]北村薫

 いつもの酒場で好みの酒をまず一口。ほっとした顔の「女子」が二人、本を前に何やら話しております。
「今度の北村さんの小説って、あたしたちみたいに酒飲み本好きの編集者が主人公だね」「そやそや、いつもよりちょっとコミカルな感じ」「ダジャレもたくさん出てくるし」「北村さんらしい、かしこそうなやつがね」「主人公の都さんが、駆け出しの頃からよき伴侶を見つけるまでが描かれてるから、女子の成長物語でもある」「きまじめなんやけどそそっかしい女子の生態に、うなずきながら読んだ。こういうこと、あるあるって」「彼女の同僚たちや作家先生のエピソードが、どれも印象的ね。上司に怒られると、『褒められて伸びるタイプなんです』なんて言うヤツ、絶対いるもん」「それに、登場する人の酔っ払い方が尋常やない。廊下に寝る、くらいは当たり前やもん。でも、それが不思議なおかしみを感じさせる。人様にひどい迷惑をかけてないからやろか。出てくるお酒や食べ物もおいしそうやね。キンミヤの焼酎やら、猪(いのしし)のシチューやら」「食欲もそそられるけど、今までになくエロチックな描写が多くて恋心もそそる。たとえば、都さんが酔いつぶれて下着をなくすところとか、足湯で恋人と足の指相撲するところとか」「奥ゆかしくなまめかしいエロやね」お酒が進むにつれ、話はいよいよ佳境に入ります。「都さんの結婚に至る部分があまりにスムーズやから、やや出来すぎの感がなくはない。北村さんの小説は、出てくる人がみんないい人すぎる点が読者の好みが分かれるところやな」「でも、明るいところに隠された陰もさりげなく書かれてるわよ。人間の汚い面がわかってないと、いい人は書けないんじゃない?」「最終章のブックキャットの話は、本好きにはたまらへんよね」「ほんとに『読めば都』ね。もう一度、乾杯しよ!」

    ◇
 きたむら・かおる 49年生まれ。『夜の蝉』で日本推理作家協会賞、『鷺と雪』で直木賞。